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あなたが欲しい
33
中の声は細く続いた。
「私……私、その人が世界中の何より嫌いなんです。 そばに来られるだけで寒気がして、触られたりなんかしたら全身に血が上って……パンパンに腫れあがってしまうんです……」
はあ? クイントはよく理解できず、頭が疑問符で一杯になってしまった。
「腫れるって……風船みたいに?」
「ええ」
声はますます小さくなった。
「お医者さまは、非常に激しい急性ジンマシンだと」
ジンマシンか! 赤いブツブツができて、ひどく痒いということしか知識になかったクイントは、体がふくれてしまうほどの症状を想像できなくて、ひどく戸惑った。
「ジンマシンって収まるんですよね」
「ええ、でも数時間かかります。 その間は顔がむくんでしまって、ひどいんです」
そこでようやく、クイントは噂の真相を悟った。 フィリパお嬢さんは赤ら顔で中国人形のように目が細く、とても器量が悪いという、あの噂。
――『糸引き目』って、それか。 顔がふくれて目がうまく開かなくなったところを見られたんだな――
縛り終わったエイドリアンがドアの前に来て、静かに言った。
「気にしないで。 そんなの本当の顔じゃないんですから。 もう夜だし、ヴェールを深く被っていればわかりませんよ」
「でも……」
まだ部屋の中でためらっている。 それならと、エイドリアンはクイントと協力して、さるぐつわをかませたマクミランを箪笥に押し込み、明かりを消した。
「さあ、暗くしました。 急いで逃げましょう!」
ようやくそろそろとドアが開き、黒っぽい姿がすべり出てきた。
三人は再び裏階段をこそこそと下りた。 そして、納屋の陰でおとなしく待っていた馬のもとへ急いだ。
エイドリアンが鞍に乗るとすぐ、クイントがフィリパを押し上げ、前に乗せた。 彼がもう一頭の馬にひょいと飛び乗ると、一同はしんとした夜道をわき目もふらずに駆け去っていった。
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