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表紙

あなたが欲しい  31


「妙な妄想から覚めるんだ。 えらく人見知りで、外出するときにはいつも分厚いヴェールをかけて人目を忍んでいる娘の言うことなんか、誰が信じるものか」
「私にだって味方はいるわ!」
「エイドリアンか?」
 不意にマクミランの調子が変わった。 声に歯軋りに似たかすれが入った。
「確かエイドリアン・クーパーという名前だったな。 弁護士の使い走りで、従僕並みの給料も貰っていない下っ端だ」
 げっ。 やっぱり事務所に問い合わせたのはマクミラン一派だったと知り、クイントは思わず首をすくめた。 これでフィリパ嬢の信用はがた落ちか……
 驚くほどきっぱりとした返事が戻ってきた。
「知ってるわ。 私だって調べたわ。 エイドリアンさんはコンウェイ&ハーパー事務所の希望の星だそうよ。 うぬぼれさせちゃいけないって安給料で使っているけど、このまま努力すれば将来はコンウェイさんの後継者ですって」
 おうっ。 そんな事実はかけらも知らなかったクイントは、焦ってつんのめりかけ、ゴンとドアに頭をぶつけてしまった。

 たちまち鋭い声が発せられた。
「誰だ!」
 続いて迫ってくる靴音。 クイントは大急ぎで廊下の窓に飛びつき、両手を大きく振って合図した。
 すぐに下で、鮮やかな赤い光が上がった。 エイドリアンが石炭入れの藁に火をつけたのだ。
 ドアを開けて飛び出してきたマクミランを見ても逃げたりせず、逆に素早くおびえた表情を作ると、クイントは窓辺に立ったまま息せき切って呼びかけた。
「火事です! 今ここを通ったら下が真っ赤で!」
「なにーっ?」
 マクミランも慌てて窓から顔を突き出した。
 その一瞬の隙を、クイントは見逃さなかった。 右手を手刀にして構えると、力まかせにマクミランの首筋を一撃! 予想もしない不意打ちに、マクミランは声も出せずに崩れ落ちた。
 





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