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あなたが欲しい
27
窓際の小さな机で、調書と首っ引きになって、エイドリアンは訴訟用の資料作成に余念がなかった。 形のいい額に薄い皺を寄せ、目は左右の書類を行ったり来たりする。 いかにも一心不乱という体勢で、パイプをくゆらせながら入ってきたコンウェイ弁護士が、思わず立ち止まってしげしげ観察するほどだった。
「今日はまた、えらく熱心だな」
「はい」
紙を見つめ続けたまま、エイドリアンは答えた。
「公判は明日ですから、抜けのないよう仕上げないと」
「助かるよ。 君は真面目で腕がいい。 巷から問い合わせが来るぐらいだからな」
冗談めかしたその言葉が、エイドリアンの耳にふと引っかかった。
「問い合わせ?」
「そうなんだ」
机の端に腰を乗せ、片脚をぶらぶらさせて、コンウェイはひょうきんに言った。
「お宅の事務所に勤めるエイドリアンなにがしとはどのような青年ですか? と、受付のバーンズに訊きに来た男がいたらしい。 なぜ君のファーストネームしか知らなかったのか、ちょっと疑問だが」
鵞ペンを持つエイドリアンの手が一瞬止まった。 しかし、すぐまた忙しく動き出した。
コンウェイが奥の広い自室に入って間もなく、ドアが音を立てて開き、はあはあ言いながらクイントが駆け込んできた。
書類を束ねていたエイドリアンは、じろっと親友を睨んだ。
「ここへ来ちゃ困ると言ってあるだろうが」
「今日は例外!」
荒い息の合間に、クイントは笛のような声を出した。
「えらいことになった。 マクミランがフィリパさんをさらって行った!」
日頃あまり表情を変えないエイドリアンの顔が、驚きで一段と無表情になった。
「えっ?」
「リビーちゃんも一緒にだ! 今朝の九時ごろ二人を馬車に詰め込んでいったそうだ!」
「九時だって?」
時間を聞いたとたん、エイドリアンの青い眼が朝日を受けた泉のように輝き始めた。 唇が動いた。
「じゃ……居留守を使ったわけじゃなかったのか」
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