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表紙

あなたが欲しい  26


 翌日の三時少し前、マクミラン邸の裏手に来たクイントは、木戸に鍵がかかっているのに気づいて胸騒ぎを感じた。
 すばやく周囲を見渡した後、彼はすばやく塀の上に取り付いて体を引き上げ、中を覗いた。
 屋敷はしんとしていた。 見える範囲の窓はすべて、鎧戸が閉まっている。 三度ここに来たが、これまでそんなことはなかった。

 それでも約束の三時を十分過ぎるまで、クイントは近くをぶらぶらして時間をつぶしていた。
 十五分が近づき、いよいよ誰も屋敷から出てこないと決まったとき、彼はマフラーをぐるっと顔に巻きつけて目だけ出るようにして、隣りの家の通用門を叩いた。
 やがて中から、顔見知りの小間使いロバータが出てきた。 すかさずクイントは愛想のいい声をあげた。
「やあ、ロバータさん、覚えてますか? 香水売りですよ」
「あら、いらっしゃい。 また新しいのを仕入れた?」
「いや、ちょっと風邪を引いちゃってね。 だからこんなふうに鼻をおおって……ゴホッゴホッ」
 今日は変装をしていない。 素顔をごまかすために一段とマフラーを引き上げ、空咳をしながら、クイントは急いで尋ねた。
「実はお隣りのリビーさんに、つけでオーデコロンを売ったんですが、今日代金を貰いに来たら扉が閉まっていて、呼んでも出てこないんですよ」
「ああ、マクミランの人たちなら、今朝出てったわよ」
「出てった!」
 声がうわずった。 ロバータは大きくうなずいた。
「すごく急いでね。 ええと、九時ごろだったわ、確か。 馬車を二台も仕立てて、秘書とマクミランさんがヴェールを被ったお嬢さんを抱きかかえて乗せてたわ。 後からリビーも」
「二人がかりで?」
「そうなの」
 ロバータは顔をしかめた。
「お嬢さんはよく見えなかったけど、リビーは様子が変だった。 目が虚ろで、半分寝てるみたいで。
 まあ、係わり合いになるのは嫌だから、庭掃除を止めてうちに入ったけどね。 秘書のスティラーさんにジロッと睨まれたし」
 マフラーに隠れたクイントの顔が、次第に青ざめていった。
 





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