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表紙

あなたが欲しい  22


 夏の間あんなに長かった昼は、すでに急速に短くなりかけていた。 空の端が水色から藍色に変わるころ、エイドリアンに送られて、リビーは屋敷の裏門まで戻ってきた。
「じゃ、明日のお昼に」
「またここで」
「ええ」
 少しためらった後、エイドリアンは身をかがめてリビーの頬に唇をつけた。
 ふたりはしばらく、無言で抱き合っていた。 やがてエイドリアンのほうから静かに体を離し、ゆっくりと、斜めになった帽子を被り直して、縁に手をかけて挨拶すると、どことなく定まらない足取りで去っていった。

 リビーは物思いに沈みながら門を開き、すべりこんだ。 音もなく、扉が閉まった。
 だが、彼女はすぐには家に入ろうとしなかった。 庭に置かれた白いベンチにぽつんと腰をおろし、しばらくうつむいていたが、やがてハンカチを出して目を拭った。
 ガラス窓を一面にちりばめたホールの横で、人影が動いた。
「やあ、リビー」
 リビーはびくっと背中を強ばらせ、急いで振り返った。
 背後に立っていたのは、顔のメイクをきれいに取り去ったクイントだった。 ハンカチをぎゅっと握ったリビーの指が緩んだ。
「あら……クイントさんだったの。 声がそっくりで」
「エイドリーとだろ?」
 薄く笑って、クイントはベンチに近づき、少しリビーと離れた所に座った。
「よく言われるんだ。 顔は全然違うのにねって」
「お二人はどうして友達になったの?」
「パプで知り合って意気投合したんだ。 どっちも貧乏で自分だけじゃ部屋を借りられないから、ずっとルームメイト」
「いいわね、親友がいて」
 クイントの口元が小鬼のように歪んだ。
「君だってお嬢さんと仲良しじゃないか」
「私は……お給料で雇われているだけだから。 頼りになる親がいないし、この世で独りぼっちなの」
 その声には、間違いようのない寂しさがあった。





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