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あなたが欲しい
21
どうしよう!
エイドリアンはパニックになりかけた。 自慢ではないが、これまで誘惑されたことは何度もある。 上司であるコンウェイ弁護士の依頼人が、恋人になったら事務所を開かせてあげると色目を使ってきたこともあった。
だが、これまでエイドリアンはそういった誘いにまったく乗らなかった。 身持ちが固いというよりも、そういう女性に魅力を感じなかったからだ。 結婚しているくせに男を誘うなんて真心がない、と腹を立ててしまうほど、エイドリアンは四角四面だった。 だが……
――クイントの計画に加わった時点で、もう真心なんてきれい事を言う資格がなくなったな――
自嘲しながら、エイドリアンの胸は轟いていた。 たいして美人でもない小娘だが、自分にとっては王女さまより大事なんだと、ようやく気付いた。
「ねえエイドリアンさん」
そのときリビーが耳元で囁いた。
「キスしたかったら、してもいいのよ」
ここまで言われて何もしなければ、男じゃない。 混乱した頭のままで、エイドリアンは体をねじってぎこちなくリビーを抱き、唇を重ね……ようとして、歯が当たってしまった。
「いたっ」
「ごめん」
「ううん、いいの」
二人は小声で詫び合った。 目立たないように深呼吸して自分を落ち着かせ、エイドリアンはもう一度挑戦した。
今度はまあまあだった。 ふっくらした唇はさくらんぼのようで、エイドリアンは目まいがした。
短いキスの後、彼の胸に寄りかかったままで、リビーはしばらくじっとしていた。 尻がだんだん冷たくなってきたが、エイドリアンも我慢して動かなかった。
やがて目を開け、彼の上着のボタンを指で回しながら、リビーは小鳥のように囁いた。
「わかった。 まだ恋人いないでしょう」
見すかされた――エイドリアンは気恥ずかしくなったが、逆に度胸が据わった。 そうさ、俺は遊び人じゃない。 これまで学問と仕事に一筋だった。 悪いか?
リビーは急に腕を伸ばして、パッと彼を抱きしめた。
「うれしい! 初キスの相手だったなんて!」
そして、笑いながら立ち上がり、つないだ手で、優しくエイドリアンを引っぱった。
「またお屋敷に来るわよね?」
促されるままに立つと、エイドリアンは、ぽうっとなって答えた。
「行くよ」
「また会える。 そうよね?」
「そうだよ」
「じゃ、今日はひとまず帰りましょう。 独りぼっちのお嬢様が心配になってきたから」
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