表紙目次文頭前頁次頁
表紙

あなたが欲しい  19


 公園には心地よい風が吹いていた。 小さなセーラー服を来た男の子たちが、はしゃぎながら凧揚げをしている。 菱形をした凧のひとつが子供の手を離れ、エイドリアンの足元に落ちてきた。
「すいませーん!」
 子供が礼儀正しく声をかけたので、エイドリアンは身を屈めて拾ってやった。 子供たちは嬉しそうに糸を掴んでバタバタ駆けていった。
 その様子を見ていたリビーが、ぽつんと言った。
「子供好きなのね」
「そう見える?」
 子供が苦手なエイドリアンは驚いた。 しかし、リビーは頑固に言い張った。
「ええ、眺める目がやさしいわ。 私のときより」
 エイドリアンはたじたじとなった。 そうかもしれない。 リビーを見るときには、緊張のせいで睨むような視線になっているかも……
 こんな場合、クイントならどうするだろう。 エイドリアンには思いつかなかったし、たとえわかっても実行できるはずがなかった。
 せっかくの午後が灰色になりかけた時、すっとリビーが寄ってきて、手を伸ばした。
「私のことも子供だと思って。 クッキーやボンボンを欲しがる親戚の子供だって。 さあ、手をつなぎましょう」
 指と指がからまった。 とたんにエイドリアンの頭の芯に甘い衝撃が走った。

 握り合った手を軽く振って、リビーは楽しげに歩いた。
「秋っていいわねえ。 私は春より好き。 あなたは?」
「好きだけど、すぐ寒くなると思うと」
 引出しの奥に詰め込んである、指先に穴のあいた手袋を思いながら、エイドリアンは答えた。
 ちょうどそのとき、池に近いベンチから二人の男が立ち上がるのが眼に入った。 リビーはすぐに足を早めた。
「あそこに座りましょう。 ゆっくりお話できるわ」
 座るって…… エイドリアンはあることを思い出して当惑した。 実は、若手弁護士らしくするために仲間から新しいズボンを借りて着ているのだが、そのサイズが体に合っていないのだ。 立っている分には少しきついだけだが、座るとなると……
 しかし、悩んでいる間もベンチは確実に近づいてきていた。





表紙 目次前頁次頁
背景・ライン:punto
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送