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表紙

あなたが欲しい  18


――フィリパさんに見られた――
 そう気づいて逆に、度胸が据わった。 ようやく自分の本心が見えてきた。
――大物狙いなんて柄じゃない。 俺は地味な面白味のない男だ。 小間使いや女店員くらいと付き合うのが向いてるんだ。 そう、小間使いが…… ――
 月より地上の星がいい。 そう悟ったエイドリアンは、軽い足取りでリビーをケンジントン公園に導いていった。


 一方、クイントはまだ孤軍奮闘していた。
「じゃ、たまたまコーネル嬢がわっしの好みに合わなかったのかも」
「まあ、そういうこともあり得るわね」
 隣家の小間使いは少し優しくなった。 しめた! とクイントは攻勢をかけた。
「どうも屋敷のご主人とうまく行ってない感じでしたね」
「マクミラン様と? 当然でしょうね」
 あっさりと小間使いが認めたため、クイントは目を見張った。
「どういうこってす?」
 噂好きそうな小間使いは、ここぞとばかり顔を寄せてきた。
「マクミラン様は、リビーを目の仇なの。 フィリパお嬢様に貝みたいにへばりついてるのを何とかして引きはがそうとしてるんだって」
「はあ?」
 小間使いの声が、いっそう低くなった。
「わかるでしょ? あの助平おやじ、お嬢さんを狙ってるのよ」
 フィリパさんを? それとも彼女の財産をか? どっちにしろ事態は切迫しているらしい。 クイントは気持ちを引き締めた。
「そりゃあ気の毒だ。 あそこのお嬢さんはまだ二十歳かそこらでしょう? だがマクミランさんは……」
「五十を越えてるわ。 でも殿方はいつまでも若い気だから」
 それにしたって、慕われているならともかく、はっきり嫌われてるのに! クイントは義憤を感じ始めた。





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