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表紙

あなたが欲しい  17


 実をいうと、エイドリアンには書類よりも気にかかることがあった。
「今日は制服じゃないんだね」
「え? これ?」
 言われて驚いたように、リビーは地味な服を改めて見渡した。
「今日から明後日まで、マクミラン様がハートフォードのお友達の家へお出掛けなの。 だからお嬢様が、今日の午後は羽を伸ばしておいでって休みを下さったのよ」
「それで、どこへ行くつもり?」
 エイドリアンは声を詰めるようにして尋ねた。 リビーは困ったように首をかしげた。
「まだ決めてない。 急にお休みになったから」
「じゃ」
 一世一代の勇気を振り絞って、エイドリアンは早口で申し出た。
「公園でも散歩しない?」
 リビーのくるっとした瞳が、素早くエイドリアンの端正な顔を見上げた。
「私と?」
「うん」
 思わず声がぶっきらぼうになった。 好意を持つと逆に態度が冷たくなる。 自分でもわかっている悪い癖だが、直せなかった。
 するとリビーは、意外にも微笑んだ。 なんとなく寂しげで、自分に納得させるような笑顔だった。
「そうね、今日は風がなくてポカポカしてるから、散歩にはいいわね。 ちょっと待ってて。 この書類を戻してくる」
 ほっとして、エイドリアンは木に寄りかかった。 少なくとも一年分の勇気を使いつくした気分だった。

 やがて戻ってきたリビーは、ピンク色の傘とお揃いのポシェットを持っていた。
「お待たせ。 行きましょう」
 リビーに肘を貸して外に出るとき、エイドリアンは何かが動いた気がして、首を回して建物を振り返った。
 二階の窓のカーテンが引き寄せられていたが、見られているのに気付くと、すっと降りた。
 





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