表紙目次文頭前頁次頁
表紙

あなたが欲しい  16


 ほぼ同じ頃、訴訟書類の下書きを中断して抜け出してきたエイドリアンが、密やかにマクミラン館の横を歩いていた。
 やがて内側から通用門が開いた。 エイドリアンは左右に目を配り、誰も見ていないのを確認すると、体を斜めにして素早く庭にすべりこんだ。
 樹の陰にはリビーがいて、エイドリアンに丸めた書類を手渡した。
「これですって」
「ありがとう」
 受け取るとすぐ、エイドリアンは上質紙の上から下まで素早く目を通した。 そして、真ん中へんの細かい文字に指を置いた。
「ほら、ここ」
「え?」
 リビーは巻き毛を揺らして覗きこんだ。 今日は小間使いの制服ではなく、地味な茶色の服に同色のケープを重ねていた。
 行を指先でたどっていきながら、エイドリアンは説明した。
「ここに、カスター街二ー三の土地建物の賃貸もしくは譲与はその全権をアルフレッド・マクミランに委ねるべしと書いてある」
 リビーは目まいを起こしたような表情になった。
「それって、わかりやすく言うとどういう意味?」
「つまり、ここのお嬢さんはカスター街に土地つきの建物を持っているんだが、マクミランはそれを勝手に貸したり売ったりできるようになるんだ。 この書類にお嬢さんがサインすれば」
 リビーは口を尖らせ、肩で大きく息をした。
「汚いわね。 騙してサインさせて、家を取り上げようとしてるわけね」
「その通り」
「でもなぜ?」
 それがリビーには理解できない様子だった。
「マクミラン様は大金持ちよ。 このお屋敷だって、家だけじゃなく中身にもすごくお金をつぎこんでるのよ。 美術品、骨董品、はんぱじゃない数なんだから」
「その道楽をやりすぎたんじゃないか?」
 エイドリアンは小さく首を振った。
「絵や壷なんかは、買うとびっくりするほど高い物があるから」
「それにしても」
 まだリビーは納得のいかない顔をしていた。





表紙 目次前頁次頁
背景・ライン:punto
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送