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表紙

あなたが欲しい  14


 マクミランらしい男はドアの向こうで唸った。
「わかる。 気持ちはとてもよくわかるよ。 寂しいんだろう? それならもっとわたしを頼ってほしいね」
 フィリパは答えなかった。 じれったそうに、マクミランは話を続けた。
「さあ、何をしているんだ。 さっさとここを開けなさい」
 わずかなためらいの時を置いて、錠の音がした。 我慢できなくなって、クイントは糸のように細くドアを開き、片目で覗いた。
 狭い視野を、燭台を掲げて入ってくる男の姿が一瞬横切った。 恰幅のいい中背の男性という印象が残った。
 足音が止まった。
「おや、リビーも一緒か」
「はい」
 だいぶ離れた場所から、低い返事が聞こえた。
 ガウンがすれる音がして、マクミランはもったいぶった口調で言った。
「歩けるようになってよかった。 頭痛は止んだんだね?」
「はい」
「それなら、明日こそ書類にサインしてもらうよ。 どうってことのない書類なんだ。 トーキーにある君の別荘の管理人を代えるための契約書でね」
「わかりました」
「それじゃ、絵を見終わったら早く寝なさいよ。 おやすみ」
「おやすみなさい」
 足音が遠ざかっていった。 ドアが静かに閉まった。

 少し様子を見てから、若者二人は隣りの部屋から出た。 リビーはフィリパに近づき、しっかり寄り添った。
「お嬢様! 大丈夫でしたか?」
 胸に手を当てて、フィリパは大きくうなずいてみせた。 その様子を見て、クイントはどこか辻褄の合わないものを感じた。 大丈夫でしたかなんて、こういう場合に使う言葉だろうか……
 エイドリアンは、ずっと考えこんでいたが、そこで初めて自発的に声を出した。
「書類にサインを、と言ってましたね」
 女性二人は、驚いた様子でエイドリアンに顔を向けた。 フィリパがぎこちなく答えた。
「ええ」
「その書類を確保してもらえませんか?」
 二人は顔を見合わせた。 リビーが尋ねた。
「確保って?」
 専門用語を使ってしまったことに気付き、エイドリアンは急いで説明した。
「手元に置いておくということです。 サインする前に。 明日僕が伺って、中身を精査しますから」
「精査って?」
 今度はクイントが小声で尋ねた。





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