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表紙

あなたが欲しい  12


 姿を現したエイドリアンに、最初に気付いたのはリビーだった。 彼女は近づいてくる青年をまじまじと見て首をかしげ、信じられないという表情を浮かべた。
「まあ……灯りの下だとまるで違って見えるんですね」
 言葉まで微妙に丁寧になった。 顔を褒められたと気付いて、エイドリアンは逆に気まずさが増してしまった。
「やあ、こんばんは」
 それだけをぶっきらぼうに言うと、エイドリアンは二人の横につき、しゃれた門を眺めた。
「今日はちゃんとここから?」
「ええ。 おとといは鍵を忘れちゃって。 さあ入って。 ただし、音はできるだけ立てないでね」
 あれ? エイドリアンは拍子抜けした。 話はついているんじゃないか。 なのにどうして、クイントは難しい顔をしているんだろう。

 少女を先に立てて、三人は密やかに広い庭へ入った。 屋敷は東西に長く伸び、右の端が半円形に突き出て、温室風になっていた。
「ここは孔雀の間。 ほら、雄の孔雀が羽を広げた形に似てるでしょう? ガラスでぐるりと囲んであるから、日中はとても暖かいのよ」
「この広間にお嬢さんが?」
「ええ、でも灯りをつけるとマクミラン様に気付かれてしまうから、小さな燭台だけ。 そっとよ。 そっと」
 かすかにきしむガラス戸を開いて、リビーはそっと中に足を踏み入れた。 すぐに、押し殺した声が聞こえた。
「リビー、戻ったの?」
「はい。 こちらにお連れしました。 昨日お話したクーパーさんとバーニスさんです」
 リビーもささやき声で答えた。
 男二人はほとんど同時に帽子を脱いで、部屋の奥に頭を下げた。 中はリビーが言った通り、色が見分けにくいほどの薄暗がりで、長袖の黒っぽい服に分厚いヴェールをかけた女性のシルエットがわずかに浮き上がって見えた。
「クーパーさんにバーニスさん、ごきげんよう。 どうぞこちらへ」
「初めまして、ミス・スペンサー。 それじゃ遠慮なく」
 そう言いながら、クイントはためらうエイドリアンの背中をぐいっと押した。





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