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あなたが欲しい
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黙って立っているエイドリアンに目くばせすると、クイントはさっそく切り出した。
「ここのお嬢さんのことなんだけど」
とたんに少女の表情が固くなった。
「何もしゃべれません。 変な好奇心を出さないで」
「違う違う! あのさ、彼女もうじき成人して遺産を引き継ぐんだろう? そう言っちゃ悪いが、あまり人前に出ない深窓の令嬢らしいじゃないか。 いきなり財産の相続と管理なんて、難しいよ。
そこでだ、このクーパー君の登場になるわけだ。 若いが経験豊富な事務弁護士なんだよ」
不意に話を振られて、エイドリアンはぎくっとなった。 確かに法廷弁護士のために調査を引き受けているが、まだ下請けの下請けといったところ。 遺産管理どころか、遺言書の実物さえまだ見たことはなかった。
だが、エイドリアンに向いた娘の眼には、明らかに尊敬の光が宿った。
「弁護士さん? 立派なのね」
「いや」
後でばれたら信用を失う。 エイドリアンは否定しようとした。
そこへすばやくクイントが割り込んだ。
「そうなんだ。 優秀だが謙虚で、しかも押し出しがいい。 三拍子揃ってるんで羨ましいよ」
「それで、どうしたいの?」
彼女は目に見えて乗ってきた。 その様子に勢いを得て、クイントはさらに突っ走った。
「君から、お嬢さんに伝えてくれないかな。 大げさじゃなくていいんだ。 ただ、若くて有望な弁護士を知ってるけどちょっと会ってみませんか、とか、そんな感じで」
「さりげなく?」
「うん」
「何かのついでみたいに?」
「そうそう」
娘は頭のレースを直し、心を決めた。
「言うだけでいいなら」
「ありがとう!」
クイントはまたジグでも踊りそうなほど喜んだ。
娘は、そんな彼を面白そうに眺めていたが、すぐに言った。
「でも、どこの誰かわからなくちゃ、紹介できないわ」
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