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表紙

あなたが欲しい  6


 あまり立ち止まっていると怪しまれる。 今夜は偵察に来ただけだから、二人は散歩を装ってさりげなく歩き出した。
「確かに立派な家だ。 俺たちとは世界が違う」
「よせやい。 人生の階段は駆け上がるためにあるんだ」
「なんだそのクサイ文句は」
「今やってるコメディの『アラベラ嬢万歳!』の決めセリフだよ」
「そんなことだろうと思った」
 ゆっくりと歩いてはいたが、まだマクミラン邸の塀は続いている。 相当広い敷地だった。
「家族はフィリパ嬢とマクミラン氏の二人だけか?」
「うん、それと女中が二人に下男が二人。 秘書はいるが執事はいないらしい」
「よく調べあげたな」
「俺相当本気なんだぜ。 やろうよ、な? こんなデカイ屋敷に二人で住んで贅沢のし放題。 不公平すぎるよ。 それに来月でフィリバ嬢は二十一歳になって後見を外れるそうだ。 今が数少ないチャンスなんだよ!」

 確かにこの屋敷は大きい。 庶民のアパートなら百世帯以上住める建物が作れるだろう。 マクミランの土地でフィリパ嬢の持ち物じゃないが、彼女もその気になれば豪邸がいくつも買えるほどの富豪だという……
 道の角で、エイドリアンは足を止めた。 澄んだ湖のような眼が、ガス燈の光を受けて淡く輝いた。
「なあクイント」
「うん?」
「自信はない。 まったくないが、試す価値はあるかもしれないな」
「ほんとかい!」
 クイントは息を弾ませ、不意に空中へ飛び上がると足の踵を打ち合わせた。
「やった!」
「だから、成功するとは限らないって……」
「させるんだ。 計画立てて! おまえの頭脳と俺の機転をあわせれば、怖いものなしさ!」
 クイントはすっかり有頂天になって、帽子をくしゃくしゃに丸めると空高く放り上げた。





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