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表紙

あなたが欲しい  5


 ベラミー夫人が下宿屋の裏口に入るのとほぼ同じくらいに、角を曲がってクイントが姿を現した。
「よう、待ったか?」
「少しな」
「じゃ、ヘイマーケットを通ってビンスフォード街へ行こう。 お目当ての彼女はその街に住んでいるんだ」

 若者二人は、マーケットで少し腹ごしらえをした。 クイントが珍しくビールをおごってくれたので、エイドリアンは目をむいた。
「どういう風の吹き回しだ? 昨夜は水で空腹をまぎらせていたじゃないか」
「昼休みに街角で例のあれをやったんだよ。 くるみの殻三つと安物の指輪一個で」
「ああ、ぐるぐる並べ替えて、どの殻に入っているでしょうかってやるやつだな」
「そう、そのとおり。 で、五ペンス賭けて十回ほどやって四ポンド近く稼いだところで、地回りに見つかる前にとんずらしたんだ」
 エイドリアンは整った眉をひそめた。
「地回りって、縄張りのやくざだろう? ショバを荒らしたら袋叩きだ」
「だからすたこら逃げるんだよ。 大丈夫、言っただろう? 俺の顔は覚えられないって」
 ごちゃごちゃ話しているうちに、皿数の少ない食事はすぐ終わってしまった。


 満腹になるのは四日ぶりだった。 機嫌よく、二人は夜の街に出た。
 半時間ほど歩くと、道は広くなり、両側にある家々の造りは大きくなった。 高級住宅地に入ってきたのだ。
 やがてクイントは、白っぽい塀の目立つ一際高級そうな屋敷の前で立ち止まった。
「マクミラン邸だ」
「ここに、そのマクミラン嬢がいるのか?」
 小声で尋ねたエイドリアンに、クイントは首を振ってみせた。
「違うんだ。 アルフレッド・マクミラン氏は後見人。 お嬢さんの名前は、フィリパ・スペンサーだ」





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