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33 予想した対決



 ロザリーは馬車で、丁重に領主館へ届けられた。 ギリシャ風の玄関へ上がっていくとき、足がすくみそうになったので、できるだけ胸を張って堂々と歩くようにした。


 ノッカーは羽を広げた鷲の形をしていた。 こんな立派なものに触れたのは初めてだ。 内心おっかなびっくり持ち上げると、思ったより重くて手から滑り落ち、ドアに当たって鋭い音を立てた。
 とたんに扉が開いた。 まるですぐ後ろで待ちかねていたように。
 姿を見せたのは、黒の正装に身を固めた痩せた男性だった。 たぶん執事という仕事をしている人なのだろう。 ロザリーは唾を飲み込み、相手の威厳に押されないよう足を踏ん張った。
 すると彼は微笑んだ。 びっくりして、ロザリーは思わず目を見開いた。
「マダム・カズヌーヴでいらっしゃいますね? 執事のロベールでございます、お見知りおきを。 それではすぐ、ご案内いたします」
 折り目正しい言葉遣いで、しかも温かみが感じられた。 こんなに親切に迎えてくれるなんて──ロザリーはかえって戸惑い、ぎこちなく挨拶した。
「ロザリー・カズヌーヴです、よろしく」
「わざわざご丁寧に。 さあどうぞ、こちらへ」


 屋敷の中は壮麗だった。 こんなに緊張していなかったら、きっと見とれてしまっただろう。 でも今のロザリーには、執事の背中を見つめてまっすぐついていくのが精一杯で、周りを気にする余裕はなかった。
 広く長い廊下を二回曲がって、二人はようやく目的の部屋にたどりついた。 ロベールは飾り彫りの入った扉を軽く叩き、よく通る声で告げた。
「奥様、カズヌーヴ夫人が見えました」
「すぐ通しなさい」
 中から戻ってきたのは、そっけない一言だけだった。


 ロベールが開けた扉から、ロザリーは静かに入っていった。 そこは上流婦人の私室のひとつらしく、贅をこらした小ぶりな家具とひだをたっぷり取ったカーテンで美しく飾ってあった。
 部屋の主は、窓の近くにある八角形の書き物机を前に座って、優雅に羽根ペンを動かしていた。 ロザリーをちらりと見たが、立ち上がろうともしない。 使用人のような扱いに、ロザリーはむっとなった。
 そうなると、持ち前の聞かん気が頭をもたげた。 喧嘩のコツは、まず最初に一発くわせることだ。 ロザリーは足を止めずにまっすぐ相手に近づくと、はっきり声を出すように気をつけながら、第一声を放った。
「カズヌーヴの家内です。 夫の話が聞けるかと思ってご招待をお受けしたんですが」
 前に座っている気位の高そうな女性の顔が、みるみる紅潮した。
「カズヌーヴの妻? あなた、私に面と向かって、よくそんなことが言えるわね」
 これをロザリーは期待していた。 思った以上にあからさまな言い方だったが。 確かに自分は、こういう高慢な人から見れば下々の生まれかもしれないが、それだからこそ正面切って闘うのは慣れている。 ロザリーは顎を上げて、高らかに応戦した。
「ちゃんとした妻ですから。 神の御前で式を挙げて、証明書をもらってます」







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