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表紙


29 冬に生まれて



 村人の端くれと認められた後、ロザリーはできるだけ目立たないように日を送った。
 自分が可憐な姿をしているのはわかっている。 その上、ささやかとはいえ家と土地を買ったので、小金を持っているらしいと評判が立っていた。 どちらも人目を引く理由になって、女性たちから敬遠されがちだ。
 だから、家政婦のマドには気を遣った。 仲良くして、信頼してもらうように努力した。 マド自身、有能で仕事好きな性格だったため、褒めるのは簡単で、やがて無口なマドも、若いがきびきびしていて面白い女主人に心を開いて笑うようになった。


 だんだん体が大きくなってくると、マドは母親のようにロザリーを世話した。 子供が三人いるデュフォーのおかみさんノエミも、何かにつけて家を訪ねてきては、先輩ぶっていろいろ教えてくれた。
 年上の女性二人の好意に守られ、ボーリュー神父の助言とデュフォーの手助けを受けて、ロザリーは赤子の誕生をひたすら待った。 同時に、この地へレイモンが戻ってくる日をも。
 彼の噂は、まったく伝わってこなかった。 先代のときから領地を管理しているフランソワ・ジオノが、そのまま仕事を続けているため、表向きは以前とちっとも変わらない日常が続いている。 そのせいで、土地の者たちはレイモンを、懐かしいがいてもいなくてもかまわない不在地主として考えていた。




 陣痛は、予定より早く、十一月末のうすら寒い夜明けに始まった。
 前もって頼んでおいた産婆が駆けつけてきたときには、すでに二時間が過ぎており、マドに付き添われたロザリーはベッドで汗びっしょりになって呻いていた。
 それからが長い闘いだった。 産婆は落ち着いていて腕がよかったが、初めてのお産は不安なことだらけだ。 おまけに、前もって考えていたより更に痛い。 陣痛の間隔が狭くなるにつれて、ロザリーは息もできなくなった。
 悪戦苦闘六時間半の末に、彼女はようやく報われた。 産湯を使ったばかりの元気な赤ん坊を胸に抱いた瞬間、心にあふれた想いを、どのように説明すればよいだろう。 それは他に比べるもののない、震えるような甘いうずきだった。


 子供は、四キロ近い大きな男の子だった。 出産が大変だったのも無理はない。
 神父と相談して、マドやノエミの意見も聞き、ロザリーは初めての息子に、ファブリスと名づけた。
 ファブリスは、生まれた直後には頭が伸びて眼が下がり、哀しげな顔をした子だった。
 だが、出産のきゅうくつさから解放されると、やがて目鼻立ちが整い、一ヶ月もすると母に似た実に愛らしい顔になった。
 髪の毛はまだ少ないが、父と同じ淡い金色で、絹のような手触りだった。
 ロザリーがほっとしたことに、母乳は初めからちゃんと出て、盛んな息子の食欲を充分満たすことができた。







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