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17 未来に希望を



 だが、ロザリーの密かな願いに水を差すように、レイモンの行動は結婚生活に慣れれば慣れるほど、くつろいだものになっていった。
 小さい家には、部屋が三つと台所用の土間が一つ。 一番大きい部屋を居間兼食堂に使い、奥を二人の寝室、その横の一番小さい部屋に縦型の書き物机を入れ、レイモンの書斎にしていた。
 ロザリーは普段、書斎には立ち入らないようにしていた。 レイモンも、勉強用の本や書類などはその小部屋にしまっていたが、秋の末あたりから、ときどき寝室に置き忘れるようになった。
 そういったズックの袋や書類入れなどに、ロザリーは手を触れなかった。 夫の大切なものをうっかり無くしたら大変だ。 ときどき彼にそっと注意したが、レイモンは軽くうなずくだけで、すぐ忘れて同じことを繰り返した。




 それから、思いもよらず楽しい冬が来た。
 その年の気温は低く、外は凍るような風が吹き渡り、作物の出来は不安定だった。
 だが、レイモンとロザリーの小さな家は違った。 小型ながらがっちりした暖炉は、たっぷりある石炭で赤く輝き、二人は温かい炉辺で椅子を並べてそれぞれ縫い物や書き物にいそしんだ後、毛布を敷いて床に座り込み、抱き合ったり、春になったらしたいことを話しあって過ごした。
「温かくなったら、もう一つか二つ部屋を建て増したいな」
 レイモンの腕を枕にしてうとうとしていたロザリーは、その嬉しい言葉を聞いて、ぱっと目を見開いた。
「どっち側へ?」
「寝室の外側さ。 続きの扉を作れば、子供部屋にできるだろう? それに荷物を置く部屋ももっと要るし」
 子供部屋……。 ロザリーは泣きそうになって、激しくまばたきした。 それこそ二人の未来だ。 よかった、彼はずっとここにいて、私と地道な家庭を作るつもりなんだ!
 ロザリーはうきうきと寝返りを打って、夫の広い胸に体を預けた。
「男の子がほしい? それとも女の子?」
 中途半端に伸びて柔らかくなったひげを、レイモンは妻の額に押し当てながら笑った。
「僕が自由に選べるのかい? 生まれてくればどっちも可愛いさ」
「私も」
 心から、ロザリーはそう呟いた。 そして思った。 一人っ子じゃなく、少なくとも二人は産みたい。 ロザリーにきょうだいはなく、同じ敷地に住んでいた伯父の子は三人とも男子で、仲良くしていたものの友達としては物足りなかった。
 うちの子には頼りあうきょうだいがいてほしい。 そう願いながらロザリーは、今度は自分が居眠りをしかけている夫の横顔を、飽きず眺めた。








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