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15 未来の庭作り



 昼間、レイモンはめったに家にいなかった。 ときどきは酒の匂いをさせて帰ってくることもあったが、男の付合いだからと、ロザリーは気に留めないでいた。 無断外泊は一度もない。 いつも夕方か、遅くとも八時には戻ってくるのだから。


 ロザリー自身は、いつも忙しくしていた。 その気になれば、小さな家でもやることはいくらでもある。 夫に約束したとおり、家具や床をピカピカになるまで磨き、秋冬用のカーテンと敷物を作った。
 家主の口利きで、近所の園芸好きな主婦から花の苗を安く譲ってもらい、庭を菜園と花壇に分けて整えた。 もうチシャやルバーブは食卓に載るぐらいに育っている。
 単語もずいぶん覚えた。 先週からは簡単な文に取り組んでいた。 挿絵つきの童話の本をもらい、読むのが楽しくて、一日何度でも取り出しては眺めていた。
 幸福は、一ヶ月続けば日常になる。 それが倍になって、ロザリーは安定した未来を信じられるようになった。
 それで、隣の住人が部屋を建て増すことになり、植えて一年たらずのアンズの木を切り倒すと聞いたとき、もったいなくて思わず申し出た。
「要らないなら貰えませんか? 自分で掘って持っていきますから」
 軍人ひげを生やしたカルヴェ氏は眉を吊り上げたが、もう邪魔な木だからと快く無料で分けてくれることになった。


 その晩、飲んでもいいし料理に入れてもおいしいシェリー酒の瓶を持って帰ってきたレイモンに、ロザリーは出来のいい肉入りタルトをご馳走して、頼んでみた。
「ね、お隣からアンズの苗木をもらうことにしたの。 お金は払わなくていいんだけど、掘り取ってこなきゃならないのよ」
 するとレイモンは、カルヴェ氏そっくりに眉を上げてみせた。
「つまり、僕に掘ってくれって?」
「そうなの」
 ロザリーは中腰になって、レイモンのこめかみにキスした。
「お願い。 あと二年か三年で、花が咲くんですって。 薄紅色のきれいな花よ。 あとから実も成るし。
 草花もいいけど、木は特別。 私達と一緒に、この家で歳を重ねていくのよ。 すてきじゃない?」
 レイモンの顔に、ふっと影が差した。
 ほとんどわからないほどの変化だったが、ロザリーは目ざとく気付いて、あれっと思った。
 しかし、すぐ彼は表情を隠し、笑顔に変えた。
「いいよ。 でも、ほんとに苗木なんだね? 行ってみたら大木で、三メートルも掘らなきゃならないなんてことは?」
「まさか! 私の背丈にも届かないひょろひょろした若木なんだから」
 ロザリーは声を立てて笑い出した。









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