表紙

 空の魔法 46 二人の半日



 麻布十番駅から南北線に乗って、王子駅で乗り換え、銀色と赤のかわいい都電で荒川遊園地前駅に着いたのは、家を出てから四五分後だった。
 乗換えがうまくいって早く到着したので、絵麻と泰河はうきうきしてメインゲートをくぐった。 開園は九時だから、ちょうど開いたばかりのところだ。 しかし週末とあって、もう園の中には動きやすい格好をした子供たちがわらわらと動き回り、あちこちで歓声が上がっていた。
 土日と休日にはフリーパス券がないので、二人は千円の『のりもの回数券』を買い、のんびりと歩き出した。 入場券も回数券も、ここまでの交通費もすべて、誕生祝として泰河がおごってくれた。
 どんどん入ってくる客たちは、二人が予想していたよりずっと幅広かった。 親子連れがもちろん多いが、いかにも近所のおじさんおばさんといった普段着の人が楽しげにしゃべっているし、デートらしい若い子たちも何組かいる。 中学生ぐらいの女子の一団が、真っ先にどうぶつ広場を目指して、まだ開いていなかったのでがっかりして戻ってきた。
「おおっ」
 のりもの広場を覗いた泰河は、数の多さに驚いていた。
「けっこうあるな〜」
「もっと少ないと思ってた?」
「うん。 そこらの児童公園ぐらいかと」
「それはないでしょ。 ちゃんとした遊園地なのに」
「でもたった入場料二百円だぜ。 太っ腹だな、荒川区」
 泰河は絵麻が思った以上に楽しそうだった。 二人は相談して、まずスカイサイクルに乗ることにした。 地上五メートルのところにレールがついていて、二人乗りの小さな車を足こぎして人力で進むのだ。
 並んでのんびりこぎながら、周りの景色など見ていると、前では親子が別々の車に乗って追いかけっこを始めた。 まだそれほど混んでいないため、二人は余裕でゆっくり進んだが、コース終了して降りるころには、少し汗ばんでいた。
「けっこう力使うんだな」
「晴れてなくてよかったね」
 こうなると曇りがありがたかった。 九月半ばだとまだ気温が高い。


 二人は十二枚綴りの回数券を使いつくすべく、いろんな乗り物に挑戦した。 コーヒーカップや豆電車、青虫のデザインの低速ジェットコースター、そして観覧車。 泰河は小型のビデオカメラを持ってきていて、乗り物に乗った後、必ず絵麻と同じフレームに収めて撮影した。
「証拠の動画だ」
「うちのお父さんに見せるの?」
「見たいと言ったらな」
「そのビデオ、写真も撮れる?」
「撮れるよ」
「じゃ、二人のとこ写してもらおう」
 そう決めて、絵麻は近くを通りかかったおばさん二人連れに微笑みかけて頼んだ。
「すみません、彼と二人で撮りたいんですけど、シャッター押してもらえます?」
 一人はきょとんとしたが、背が高くて豪快な雰囲気のおばさんは、すぐ引き受けてくれた。
「いいわよ〜、さ、並んで」
 すると泰河はいそいそとカメラを渡してシャッターの位置を教え、すぐ絵麻の隣に立つと、肩に腕を回して引き寄せた。
「はい、チーズ!」
 陽気な掛け声と共に、シャッターが切れた。 おばさんは、礼を言う二人にカメラを返しながら、楽しげに言い残した。
「どうぞお幸せに。 うちのドラ息子にも、こんなかわいらしい彼女がほしいわ〜」








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