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面影 99
共に食べる夕食は久しぶりだ。 進藤が楽しそうなので、ゆき子も努めて陽気に振舞い、皆ほどよく酒が入って、笑いのひろがる食卓となった。
「これお初、賀川にやたら飲ませんように」
「はい、承知しておりますよ」
「あと一杯。 あと一口!」
「だめ」
「どういても?」
「はい、旦那様のお言いつけですから」
賀川は大げさに頭を抱えこみ、お明に背中をちょんとつつかれて、むきになって手で払っていた。
やがて頃合を見計らって、ゆき子はそっと声をかけた。
「あの、折り入ってお願いがあるのですが」
進藤は眼を上げた。 青みがかった白の中に焦茶色の虹彩がくっきりと映えた、瑞々しい瞳だった。
「何かな?」
どう切り出そう。 ゆき子は迷った。
「おかげさまで随分元気が戻りました。 縁もゆかりもない者ですのに、こんなに親身にしてくださって、お礼の申し上げようもございません」
次に続く申し出を察して、進藤は真顔になり、姿勢を正した。 がやがやしていた続き部屋の連中も、水を打ったように静まり返った。
緊張を増しながら、ゆき子はなんとか言い終えた。
「これ以上ご厄介になっていては申し訳ない。 国許に帰って身寄りを探します。 きっと一人や二人は……」
「駄目だ」
えらくあっさりと、進藤は一言ではねつけた。
それから目を細めて笑い、穏やかな声音になった。
「無理じゃって。 まず、会津へ行く街道が雪まみれじゃ。 とても山は越えられん。
それに、戦いは終わっておらんのじゃぞ。 年の暮れに、幕府軍の残党が蝦夷で蜂起して、新しい国を作る言いよった。 雪解けを待って、ざんじ戦が始まるろうな」
激しい身震いが、ゆき子を襲った。
「またですか!」
「そうじゃ。 世の中引っくり返ったんじゃき、そう簡単にはまとまらん」
「まさか……進藤さまは出陣なさらないですね?」
思いがけない恐れで、ゆき子の喉が引きつった。
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