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105 嫌な予感


 ようやく気持ちが落ち着くと、アレックスはロビンのことを気遣いはじめた。
「このこと、ロビンに話しますか?」
「そこなんだ」
  テンプル氏は難しい顔になった。
「わたしたちは完全にあの子を実子として育てた。 わたしもティルも、素直で明るいあの子を誇りに思っていた。
  できれば、ロビンの心に曇りを作りたくないんだ。 わたしをいつまでも実の父と思っていてほしいという望みもあるしね」
「じゃ、そうしましょう」
  アレックスが明るく言った。
「知らなくていいことが、この世にはたくさんある。 幸福な秘密だって、あっていいはずだ」
  ルイーズもそう思った。 ロビンは確かにテンプル氏の子供ではないが、叔父と甥の間柄になる。 親戚の子供を育てるのは、昔からよくあることだった。
  アレックスがしみじみと言った。
「マティルダおばさんは、できた人だったんですね。 式のその日から養子を育てるなんて」
「わたしと暮らせるなら何人子供がいてもいいと言ってくれたよ」
  そう言って、テンプル氏は大いに照れた。 
  そのとき、ルイーズはあることに思い当たって愕然とした。
「テンプルさん、もしかして、セアラさんと再婚なさったのは脅迫されたからですか?」
  アレツクスの顔が鋭く引き締まった。
「そうか……彼女はナディアの姉だから……そうだったのか!」
  テンプル氏は黙ってアルバムを元の場所に戻した。 それから若い夫妻に向き直った。
「セアラは妹をうらやんでいた。 自分も社交界のレディになりたかったんだ。 だから、まだ子供だったロビンの将来をめちゃくちゃにしてやると脅して、うちに入り込んだ。
  皮肉な話だな。 その彼女がいつの間にか、ロビンのとりこになってしまうとは」
「危険だわ」
  ルイーズの顔色が変わった。
「そのロビンはジェーンさんと式を挙げてしまった。 やけになっているセアラさんが何をするか……」
「今、行方不明なんだ」
  テンプル氏は苦渋に満ちた顔で語った。
「ロビンがとうとう我慢できなくなって、銃を使って追い出した。 それっきり消息がわからない。 ジェーンとロニーには密かに護衛をつけているが」
「ニューヨークのナディアのところへ行ったんでしょうか」
  アレックスが尋ねると、テンプル氏は首を振った。
「たぶん違うだろう。 ナディアも夫のデレクが心臓発作で急死してからは羽振りが悪くて、姉の面倒を見るどころじゃないはずだ」
  3人は顔を見合わせた。 嫌な予感が、それぞれの心をかすめた。


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