凍りついた空気がたちこめた。 だが、思いがけないことに、サンディがその空気を一言で割りほぐした。
「かわいいロニーの前ですよ、ロビンさん」
はっと我に返って、ロビンは息子の頭をなでた。 いつもの彼らしくなく、神経質そうに細かく手が動いている。 動揺した様子を見て、アレックスが静かに言った。
「俺が悪いんだ。 隠すようなことは何もないのに、余計な波風を立てたくなくて、ジャンヌに目くばせしてしまった」
「ジャンヌ?」
「そう。 南部のフランス系なんで、そう呼んでいた。 夜道で男にからまれてるところを馬車に乗せたんだよ。 ルイーズと引き離されていたときで、俺はズタボロ状態。 アルコール漬けだったから、そっちの方はまったくだめだった」
ジェーンは赤くなって下を向いた。
「……だから見向きもしてくれなかったのね」
「したくても無理」
アレックスはクックッと笑い出した。
「でも心配したんだよ。 お世話になりましたって手紙一本で出ていっちゃったから」
「私にも自尊心があるわ。 子供みたいに面倒みてもらってるだけじゃ、心苦しくて」
「彼を好きだった?」
不意にロビンが、小声で尋ねた。 ジェーンはまず夫を見つめ、それからアレックスに眼をやった。
「憧れてはいたわ。 尊敬もしてた。 でも、あなたに会ってわかったの。 あれは恋じゃなかったって」
徐々に、ロビンの額から雲が晴れた。
下からボーイが二段飛ばしで広い階段を駆け上がってきた。 そしてロビンとサンディを見て、一瞬迷った後、両方に代わる代わる呼びかけた。
「お急ぎください。 間もなく式が始まります」
「そうだ!」
情けない声をあげて、サンディが転がるように階段を駆け下りていった。
「私は女王さまじゃない」
初めて見せられた長い長いトレーンを見て、アニーがまず言ったのはこの一言だった。
「8人の天使に扮した子供たちが持つことになってる」
「まるで国葬になる人の棺にかぶせる国旗みたいね」
「こら、縁起の悪いことを言うんじゃない!」
眼を怒らせて、グレン氏がたしなめた。
「予行演習もしないで、途中で子供の誰かが引っかかったらどうするの?」
グレン氏はにんまりと笑った。
「実は練習させてある。 見事に歩くぞ」
「あああ」
「溜め息はやめろ」
「私が足を引っ掛けそうだから」
「それもやめるんだ。わざと転んだりしたら、あの図体のでかい婿と一緒に放り出すからな」
「どうぞ。 2人で楽しく新婚旅行に行くわ」
「まてよ。 おまえよりあっちの方が転びそうだ。 あんなに不器用で、よく医者がつとまるな」
「サンディは器用よ。 木工細工なんか天才! 彼はね、あがり症なの」
「指輪をなくしたりしないように、よく言いきかせなければ。 リングベアラーは誰だ?」
「ジョーイよ。 彼は大丈夫。 すごく気がきくの」
ジイ様は咳払いした。 なんだかひどく嬉しそうだった。
「楽しい式になりそうだな。 え?」
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