アレックスは無言でジェーンを見つめ返していた。 そして、ジェーンが口をあけると、かすかに首を振って何も言うなと態度で示した。
ちょうどそのとき、サンディが振り返ってジェーンを見つけた。
「あ、ジェーン。 来てくれたんだね」
「え?」
気が動転して、ジェーンの声は濁った。 いったいこの人は……ロビンに恐ろしいほどよく似ていて、なぜか声に聞き覚えのある、この男性は……誰?
サンディはすぐジェーンの戸惑いに気付いた。 エリクソン病院でも始終言われているのだ。 あなたがまさか、あのサンディ? と。
ぎこちない微笑を浮かべて、サンディは静かに言った。
「君のロビンさんに似てるだろう? だから髪を染めて髭を伸ばしてたんだ。 僕はサンディだよ」
「信じられない」
思わずジェーンは口走った。
「兄弟かなにかみたい」
「全然関係ないよ。 ただ偶然似てるだけ」
「ダン!」
不意に大きな叫び声が響き渡った。 ほぼ同時に走ってきた人影が、激しくサンディに抱きついた。 それは、息子を連れて『秋の間』から出てきたロビンだった。
固く抱きあっている二人を見て、ちょこちょこ後をついてきたロニーが大声で叫んだ。
「あっ、パパがもう一人いる!」
ようやく腕を離し、顔をあげたロビンの眼は真っ赤だった。
「ダン、無事だったんだね。 立派になったね……」
そばにいたアレックスが、苦笑まじりに言った。
「なんだ、知らなかったのか? 彼は今日の主役、花婿さんだよ」
ロビンは激しくまばたきした。 そのあまりの驚きように、ジェーンは不安になった。 誰もが秘密を抱えているように思えた。 なぜロビンはサンディを別の名前で呼ぶんだろう。
やがて次第にロビンの頬が紅潮してきた。
「じゃ、昔君が好きだったのは……」
「やめましょう、ロビンさん」
だがロビンは口を閉じなかった。
「どうして言ってくれなかったんだ! 僕は喜んで……つまり、もともとアニーと結婚する気はなかったわけだし」
「アニーさんと結婚?」
今度はジェーンが息を引いたので、とたんにロビンはあせった。
「それは、テンプルのお祖父様が勝手に決めたことで、僕たちは全然乗り気じゃなかったんだ」
「だから家出して逃げ出したのか」
アレックスが口を挟んだため、ますます事態は混乱した。
「ちがう! あれはセアラから逃げたんだ!」
ロビンはやっきになって叫んだ。
「僕は運河でジェーンを見つけるまで、誰も好きになったことなんかなかったんだ」
「運河?」
アレックスが素早くジェーンに視線を走らせた。 はっとなったジェーンは、思わず口走った。
「追いかけられて落ちたの。 死のうとしたわけじゃないわ、アレックス」
とたんにロビンの眼が激しく動揺した。 顔に怯えた表情が浮かんだ。 視線を交互に、妻とアレックスに走らせて、ロビンはうめいた。
「君が寝言で言ってたのって、このアレックスなのか……?!」
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