アニーはサンディの横に寄り添って座り、膝を抱えて木の梢を見上げた。
「父さんが家出したときはお祖父さんもまだ元気な中年だったから、意地を張って引き止めなかったの。 でも今はさすがに年だし、テンプル家の将来が心配になり始めているらしいわ。
だから私には大幅譲歩。 結婚式を仕切らせてくれれば、相手は私に任せるって」
サンディは幾度も横に首を振った。
「とんでもない…… とんでもないよ、アニー。 僕が君にふさわしいわけが……」
とたんにアニーは彼の襟元を掴んだ。
「何言ってるの! ここはアメリカよ。 誰でも大統領になれる国よ。 それに比べればテンプル家のトップなんて」
「でもアニー!」
「でもは無し!」
アニーは容赦なくサンディを引っ張って自分のほうを向かせると、首に抱きついて頬をくっつけた。
「好きなのよ。 わかってるでしょう? 医大からもう何年一緒にいる? 私たち、ぴったりじゃない。 こんなに相性のいい相手なんて、二度と見つからないわ。
盗みの前科なんかすぐ記録から消せる。 力を使って悪いことはないわ。 無実なんだから。 セアラったら、私があげたオルゴールであなたに濡れ衣を着せて!」
アニーは半泣きになった。 サンディはわずかに身動きし、小声で言った。
「前科は、ないんだ。 テンプルさんがわざわざ警察に来て、僕を出してくれた」
言いようもなくほっとして、アニーは彼を抱く腕に力を込めた。
「じゃ、何を気にしてるの?」
「許してもらっても、やっぱり僕は、あんなによくしてくれたテンプルさんとロビンを裏切ったわけだから」
「ロビンはそうは思っていないわ」
アニーにはようやく陰の事情がわかりかけてきた。
「すまないと思っているのは、彼のほうなのよ。 たぶんずっと前から、セアラはロビンに迫っていたんだわ。 でももちろんロビンは相手にしなかった。 それでセアラは、代わりにあなたを狙った。 ロビンはあなたを巻き込んで不幸にしたことを、とても悩んでいるようだったわ」
サンディの顔が激しく歪んだ。
アニーが抱きついて、てこでも離れないので、サンディは逃亡を諦めないわけにはいかなくなった。 2人は固く手をつないで、家に向かった。
不意に裏庭から現れた恋人たちを見て、にわとりに餌をまいていたエラは、腰を抜かしそうに驚いた。
「まあまあ、どうしたの? 来てくれてうれしいけど、不意に裏から来られると心臓に悪いわ」
「ごめんなさい、エラ」
祖母を抱いて頬にキスしながら、アニーは珍しく遠慮がちな声で言った。
「やっぱりここでの式は、できなくなっちゃった」
「そうでしょうね」
エラは納得していた。 あのグレン・テンプルが、たったひとりの孫娘を手放すはずがないのだ。
「豪華結婚式と引き換えに、彼を認めさせるの。 これから紹介しに行くのよ」
「うまくいくように、神様に祈ってるわ」
エラはやさしく2人に微笑みかけた。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||