グレン・テンプル氏は上機嫌な大司教のように両手の指を突き合わせ、孫娘の華やかな美貌を見つめた。
「条件とは、おまえがわたしのところに戻ってくることだ」
「お祖父さまのところって?」
知っていて、アニーはわざと訊き返した。 ジイ様はにんまりと笑った。
「エリザベス・テンプルとして、この屋敷で、わしの眼鏡にかなった男と式を挙げ、跡を継ぐこと」
「譲りましょう」
アニーは楽しげに答えた。
「このお屋敷で式を挙げるのはOKです」
「それで?」
グレン・テンプル氏は片眉を上げた。 アニーはきっぱりと言った。
「あとは、お祖父さまの眼鏡の質によります」
「どういうことだ」
「私にはもう好きな人がいて、婚約してます」
ジイ様はフフンと鼻で笑った。
「どこかで聞いたな。 同僚ののっぽの医者だとか」
のっぽというより大きいんだ、とアニーは心の中で言い返した。 サンディはひょろっとはしていない。 しっかりした骨太の体つきだ。
「ダグラス・アルガー・サンダースといいます。 家柄は知りませんがオクラホマの牧場主の息子です」
「牛飼いか!」
「彼は医者です。 病院でも腕を認めて採用済みです」
「問題にならん!」
そう言い捨てて、グレン氏は立ち上がった。 すぐにアニーも立ち、改まった言葉遣いを捨てて、きっぱりと宣言した。
「それなら何もかも失くすわよ、お祖父さん。 医者はどこへ行っても食べていけるわ。 私は大手を振ってサンディと駆け落ちする。 お祖父さんはニュースワンシーの帝王かもしれないけど、世界は広いのよ。 もう戦争も終わったし。
じゃね、さよなら」
「おい!」
祖父が早口で呼び止めた。
「頼み事はどうするんだ」
アニーは振り返って、にやっと笑った。
「もういいのよ。 サンディと私がやめれば欠員が2人も出る。 フィービを雇わないわけにいかなくなるわ。 それじゃあ」
「待て!」
ジイ様の胸が大きく盛り上がった。
「とんでもないジャジャ馬娘め! タイラーの言うとおりだ。 おまえの相手をすると寿命が縮むと言っておった。
初めから計画済みだな」
「そこまで勘繰らなくても」
「いや、そうだ。 おまえはそういうやつだ! わしに似ているからな」
思わぬ結論に、アニーの眼が丸くなった。
ジイ様は、背後に腕を組んで大机を二度回り、髭に手をやった後、うなるように言った。
「常識破りの子だが、それだからこそ、わしの跡を継げるとも言える。 よかろう。 その男を連れてこい。 ただし、だ。 式は思い切り、わしの希望通りにやるからな」
「はい」
ほっとして、泣きたいほど嬉しいのを隠して、アニーはおとなしく答えた。
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