ベルが鳴ったので付き添いのイレーヌを呼ぼうとして、ルイーズは思い出した。 今日は公休日なのだ。 やむなく、ルイーズはベッドを降り、用心深い足取りでドアに向かった。
「どなた?」
と問うと、思わぬ声が返ってきた。
「私よ。 早く開けて」
母だ…… ルイーズは、一瞬何ともいえない気がしたが、ともかく鍵をあけて、グロリア・ケントを中に招き入れた。
毛皮のコートを無造作にソファーに置いて、グロリアは立ったまま娘に向き直った。
「思ったより元気ね。 私は2日前にシスコから帰ってきたところ」
「そう、紅茶にする? それともコーヒー?」
「紅茶を、何も入れないでね」
ルイーズがポットを持って帰ってくると、グロリアはソファーに腰をおろして眼を閉じていた。
「悲しまないのはいいことよ。 不仲の夫婦に子供はいらないわ」
かちんときたのを押さえて、ルイーズはできるだけ穏やかに答えた。
「私達は不仲じゃないわ。 子供も欲しかったし」
「神のおぼしめしよ」
グロリアは相変わらず冷たかった。
「どういうつもりであんな男を助けようとしたかわからないわ。 確かに器量はいいし、演技力もあるけど、それだけじゃないの。 すぐに別れなさい」
それは頼みではなかった。 命令だった。 ルイーズは瞬きを忘れて母を見つめた。
「別れる? バリーと?」
「当然だわ」
短く答えながら、グロリアは手袋をはめ始めた。
「弁護士が証拠を集めてくれています。 バリー・テイラーは派手に浮気しているから、勝訴は確実よ」
「お母さん……」
不意にルイーズは、激怒で喉が詰まった。
「お母さんは、私からバリーまで取り上げるつもりなの!」
グロリアの手が動きを止めた。 テーブルを回って、ルイーズは母のすぐ前に立った。
「そんなことはさせないわ。 バリーには指一本触れさせない。 血のにじむような努力をして一人で這い上がってきたあの人を、スキャンダルで元の大部屋に追い戻すようなまねは、絶対にさせないわ!」
グロリアの頬が、少しずつ赤味を失っていった。 ルイーズは固く両手を握りしめていた。
少し間を置いて、グロリアは濁った声でささやいた。
「おまえは私よりずっと頭はいいわ。 でも、頭がいいということと、悟りが早いということは、まったく別なのね。 おまえを見損なっていたわ。 バリー・テイラーみたいなつまらない男を、おまえ本気で愛しているの?」
ルイーズの喉から、乾いた笑いが漏れた。
「お母さんの基準では、いったい誰がつまらなくない男なの?」
グロリアは唇を引き締めた。
「おまえの周りにいた男では、そう、ミッキー・ステュワートね。 人間らしいのはあの人ぐらいのものだったわ。 それなのに、おまえは彼を受け入れないで、薄情者のバリー・テイラーを選んだ」
「選ぶ選ばないの問題じゃないわ」
ルイーズはげっそりして言い返した。
「彼は友達。 他に好きな人がいたの」
「なぜ奪わないの!」
ルイーズの眼が、暗い炎となって燃えた。
「なぜですって? まず第一に、ミッキーは私を恋の相手とはまったく考えてなかったわ。 そしてもう1つ、彼と特に仲よくしていた理由は、ミッキーがアレックスの親戚だったからよ!」
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