アレックスは体を斜めにすると、笑顔になりきらない表情をした。
「君はいつも落ち着いているね。 熱病なんかにかかりそうもない。 君らしくなくなったのは、あの晩だけだ……」
かすかな微笑が苦渋に変わった。
「俺は君の人生を狂わせた。 貴族のお嬢様として何不自由なく暮らしたはずだったのに、俺が君を……」
「違うと言ったでしょう!」
ルイーズは必死でアレックスの目を見返した。
「私は黙って追い返されたわけじゃない。 帰りたかったの。 イギリスに行ってみてわかった。 父も母と同じ。 私の人生を指図したいだけだった。 レールを敷いて、ただ黙ってその上を歩けってね」
「そう。 君はとても強い」
思いに沈みながら、アレックスは喉の奥で呟いた。
「君がいなかったら、俺は生き延びることができなかったろう」
「そんなことはないわ」
「いや、そうだよ。 事情を知らない人たちの中で、君だけがいつも俺を信じてくれた。 冷静で、感情に振り回されない君がだ。 それがどんなに支えになったか……」
ルイーズは気持ちを隠そうとして眼をぱちぱちさせた。
「買いかぶりよ。 でもうれしいわ」
アレックスは大きく息を吸い込んだ。
「じゃ、俺もうれしがらせてくれよ。 君の役に立ちたいんだ。 バリー・テイラーに話させてくれ」
隠れているバリーの目が皿のようになった。
ルイーズは数歩移動し、手を握り合わせて、明らかに当惑していた。
「いいえ……男は男同士と言うわ。 確かにそうなんでしょう。 あなたの方が私よりずっとバリーの気持ちを理解できるでしょう。
でも、顔を合わせたら、彼を止めるより殴り合いになる可能性の方がはるかに大きいわ。 そういう点では……あなたと彼は似ているのよ」
「殴り合っても止めてやるよ!」
勢い込んで言うアレックスを振り返って、ルイーズは笑い出した。
「ほらね。 ところがバリーは殴られたら、這ってでも戦場に行ってしまうでしょうね」
アレックスは唇を噛みしめた。
「自尊心か」
「それもあるわ。 でも、それだけじゃないの。 バリーには何かがあるのよ。 私には決して見せない何かが」
ルイーズは寂しそうに言った。
「バリーには私が必要じゃないのよ。 邪魔にされてるとは思わないけど。 私は普通の家庭を知らないから、幸福な夫婦というのが判断できないわ。 外目には仲よくやっていても、ドアを閉じればどうだかわからないし。
だから私なりに考えると、バリーは私の暮らし方に合っているの。 彼といて退屈したり、家を飛び出したくなったことはないわ。 これだって幸福でしょう? あまり大きくはないかもしれないけど……」
「なぜ奴は君をもっと大切にしないんだ!」
アレックスは突然爆発した。 ルイーズは驚いて、アレックスの腕に手をかけた。
「そういう性格なのよ。 お世辞たらたらより無愛想のほうがいいわ。 彼はいい人よ。 だからこそ、この愚かな戦争で傷つけたくないの。 この戦争は本当に愚かだわ。 ネズミのように塹壕にもぐって動きが取れず、お互いに雨のように降ってくる爆弾で殺されているなんて」
無骨な指で、アレックスはそっとルイーズの髪を撫でた。
「よし。 説得してごらん。 君ならできるよ」
ルイーズは、ほんの短い間、アレックスの肩に額を押しつけた。
「やってみるわ。 もう一度」
アニーは病院の庭のベンチに腰かけて、じっと空を見上げていた。 活発な彼女には珍しいことだが、最近アニーはこんなふうに一人で物思いにふけることが多くなっていた。
相手が目の前にいなくなって、初めてわかることがある。 恋なんて、少しもロマンティックなものじゃないな、とアニーはこの頃思っていた。
彼女にとって、恋はいわば、やけどをした皮膚のようなものだった。 ひりひりと痛い。 夜も眠れない。 だが引っ剥がして忘れることもできないのだ。
アニーにとって、サンディはそういう存在だった。 彼のどこに他の男にないものがあるのか、アニーにはわからない。 わからないが、彼はなぜか、アニーにとって特別だった。
ふっと息を吐いて立ち上がろうとした瞬間、アニーの動作が凍りついたように止まった。
病室の角を曲がって、サンディの大きな姿が、幻のように現れた。
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