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 心臓が小鳥のように羽ばたいていた。 ハーミアはラルフの腕に固く抱きすくめられ、世界で一番幸福な囚人になったように身動きがとれなくなっていた。
「どうして……どうして、ここに……?」
 囁きが千切れながらただよった。 半ば開いた珊瑚色の唇に幾度もキスを重ねた後、ようやくラルフは柔らかい息で答えた。
「君の母上が舞台を作って会わせてくれたようだ。 ベランダの近くに部屋を取るように、幾度も念を押されたから。
 アレンマス村のジェレマイア医師のところに行っていたんだ。 預けた二人の犯人を連れ帰るために。 そこへ部下が、もう一人を海岸で発見したと知らせてきて、捕まえに行ったところで君のご両親にばったり出くわした」
 それまで二人を引き離していた偶然が、今度は味方になった。 だが、それも母の後押しがあったからこそだと、ハーミアは実感した。
「ライベリーへ犯人たちを護送していくと言うと、ついでに旅館を取ってくれと頼まれた。 それに、ぜひわたしにも同じところへ泊まってほしいと」
 ユーナの姿は既に廊下にはなかった。 二人だけにしてくれたのだ。 下から誰も上がってこないところを見ると、キースも二人の仲を認めてくれたのだろう。 ハーミアは幸せすぎて眩暈を覚えた。 つい十分前までは悲しみと孤独のどん底にいた自分が信じられなかった。
 もう一度ハーミアの瞼に口づけして、ラルフはようやく腕を解いた。
「父上に結婚の許しを請いたい。 一緒に行ってくれるかい?」
 星を散りばめたような瞳を上げて、ハーミアは胸の底から答えた。
「ええ、喜んで!」


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 後はもはや蛇足にすぎない。 求婚はめでたく受け入れられ、ふたりは三ヵ月後に友人や家族に見守られて挙式した。
 寺院には、ラルフの旅仲間だったゲイリー・アシュダウンや、アレンマス村の元軍医ジェレマイア・ヒルズも招かれた。 それに、一足先に夫婦となったイーサンとマティも。
 いかめしい石造りの建物を出ると、一同は馬車に乗ってチルフォード邸に向かい、陽気な宴会が始まった。 花嫁花婿は慣例に従って、途中で手を取り合って会場を抜け出し、人々の遠慮ないからかいを浴びながら、二階の寝室へと上がっていった。
 戸口で、ラルフは軽々とハーミアを横抱きにして敷居を越えた。 重い長靴の踵が戸を軽く蹴って閉め、部屋を二人だけの世界にしたとき、ハーミアは微笑して夫の耳元に囁いた。
「私はこの国で、ずっとよそ者という気がしていたの。 でもこれからは違う。 だってここは、あなたの祖国だから!」


    --- * --- * --- 完 --- * --- * ---





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