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 庭から戻ってきたラルフは、大慌てで馬車に乗り込んだ三人にてきぱきと指示を出した。
「ロンドンに直行するのが一番安全だと思います。 わたしを襲った連中は、賊の頭目のところへは戻らないでしょう。 味方でも容赦なく口封じさせるような相手です。 失敗は許さないでしょうから、一目散に逃げるはずです。
 ですから、頭目が何も知らない今のうちに出発すれば、きっと無事にロンドンへたどり着けます。 急いで!」
「あなたは?」
 下男が閉めようとする馬車の扉に手をかけて、ユーナが不安そうに尋ねた。 ラルフは静かな中にも決意を秘めた声で答えた。
「やるべきことが二つあります。 無事に戻れたら、必ず連絡しますから」
 馬車の中で、ハーミアの手が固くバッグの紐を掴んだ。

 二台の馬車は、荷物と召使を鈴なりに積んで、慌しく『潮風邸』を後にした。
 ラルフは、誰もいなくなった別荘の横手に姿を隠し、じっと待った。
 すぐに忍耐は報いられた。 黒い服にレースのエプロンをつけた小間使いが、何も知らずに飛ぶような足取りで戻ってきた。
 裏口から入ろうとして、鍵がかかっていることに気付き、コニーは驚いた。 そして、少し考えた後、窓に近寄って指で叩いた。
「デビー、デビー! 入れて!」
 中はしんとしている。 あせったコニーは正面に回り、玄関から入ろうとしたが、もちろんここも閉じられていた。
「どうしたの? みんなどこに行っちゃったのかしら」
 狐に似た細い顔をあちこちに向けて、コニーがすっかり落ち着きを失ったとき、ラルフが物陰から姿を現した。

 驚かそうと思ったのなら、こんな効果的な出方はなかっただろう。 無事なラルフの姿を見た瞬間、コニーの顔がよじれ、脚がスカートにからまって、斜めに引っくりかえってしまった。
 ラルフは静かに歩み寄った。
「なんでそんなに驚くんだい?」
「あの……あの、ちょっと」
 逃げ場を失った娘は、尻餅をついたまま、じりじりと後ろへ這いずっていった。
 その動きにつれて、ラルフも前に出た。
「残念だよ。 君のような若い娘さんが、破船賊の一味だったなんて」
 破船賊、という言葉が発せられるのを聞いたコニーは、一段と青ざめ、逆上寸前になった。
「知りません! 私は何も……」
「海賊は容赦なく死刑になる。 知っているね?」
「私はやってません! ただ」
「ただ、何だい?」
「ハーミアさんの様子を見ていて、何か特別なことがあったら報告しろと言われていただけです!」
 
 ついに具体的な証言が手に入った。 ラルフの眼がきらりと輝いた。
「誰に?」
 白状してしまったコニーはやけになって、ぶつけるように言った。
「ロンドンでは弁護士のバクスターさん、ここではスマイスさんです。 ウォーレンさんとこの庭師の」
 ジョージ・ウォーレンの…… ラルフは強く拳を握りしめた。 それからコニーに近寄り、おびえる娘の手を取って引き起こした。
「よく話した。 無罪にすると保証はできないが、死罪にならないよう取りなしてみよう。
 さあ、おいで。 かくまってくれる人がいる」


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