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26

 外に出て馬に乗る間も、四人は細かく打ち合わせ、素早く計画を練った。
「道に置く朽ち木は大きいほうがいいな」
「それなら俺もサムと行く。 力仕事になりそうだから」
「頼む。 ええと、ハーミアさんはすぐに別荘へ戻ってください」
「私も行きます!」
 軽々とハーミアを馬に押し上げながら、カークはきっぱり首を振った。
「だめです。 敵に姿を見られないほうがいいし、それにとても危険ですから」
「足手まといになっちゃ駄目ですよ、お嬢さん」
 チェスターの遠慮ない言葉で、ハーミアは自分を取り戻した。
「わかりました。 それでは別荘で待ってます」
「そうしてください」
 その声はもう半分風の中だった。


 馬車に乗って二分もすると、ラルフは二人の警官に疑念を感じはじめていた。
 まず、目つきが悪い。 普通の巡査なら、こんな任務のときは気楽に構えて世間話に応じるはずなのに、二人の表情はなんとなく固く、視線をできるだけラルフに向けないようにしていた。
「それで、マシューズは誰とごたごたを起こしたんだね?」
 警官たちは顔を見合わせ、年かさのほうがいやいや口を開いた。
「酔っ払いですよ。 通りすがりの」
「肩が触ったとかなんとかで?」
「まあ、そんなようなことで」
 さりげなくうなずきながら、ラルフの頭は鋭く回転しはじめた。 マシューズは確かに見かけは荒っぽい。 前科三犯の強盗面に見える、と父のオズマンドが笑いながら言ったことがある。 しかし、それは見た目だけで、実際のマシューズは酒・煙草いっさいやらない真面目そのものの堅物なのだ。 道で他人と喧嘩になるなど、マシューズに限っては考えられないことだ。
 だから騒ぎに巻き込まれたと聞いたとき、ラルフはマシューズが被害者になったと思った。 それで取るものも取りあえず馬車に乗ったのだが……
 表面はのどかな表情で、ラルフは固い座席に座りなおした。 相手がどう出るか、じっくり見極めてやろうと決めて。

 馬車は林を抜ける小道を走っていた。 低い丘を回るので、道はうねうねと何度も曲がる。 三番目か四番目の角で大きくカーブを切ったとき、馬車は大きく揺れ、上で御者が口汚く罵るのが聞こえた。
「畜生! こんなところに倒れやがって!」
 馬はいななきながら、なんとか止まった。 ラルフと偽警官たちは、窓から首を突き出して前を見ようとした。
「どうした! 何があった!」
「いやね、倒木ですよ。 すっかり道をふさいじゃってる」
 警官たちは顔を見合わせた。
「どけるしかないな」
「ああ、戻って遠回りすると遅くなる」
 ラルフが感づいているとはまだ知らない二人は、彼を残してしぶしぶ馬車を降りた。
 思わぬチャンスだった。 御者と偽警官の三人組が倒木に取り付いている間に、ラルフはそっと反対側の扉を開いてすべり下り、横の茂みにいったんしゃがみこんだ。
 とたんに、前から潜んでいた男とぶつかりそうになった。


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