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16

 本当に暇を持て余していたらしい。 十分もすると、すぐにウォーレンは大きな灰色の馬で乗りつけてきた。
 ハルがブランデー入りの紅茶というしゃれたものを出してきたので、四人はご機嫌で卓を囲み、トランプをやり始めた。
 ホイストは二人一組でやるゲームで、向かい合った二人がパートナーとなり、四人が順番にカードを一枚出して、最も強いカードの持ち主が四枚すべて(←トリックと呼ぶ)を取る。 競技はなごやかに進み、話が弾んだ。
「これで連続三トリック! 今日は我々につきがあるようですぞ」
 アシュダウンがうれしそうにパートナーのジェレマイアに話しかけると、ラルフも負けずにウォーレンを励ました。
「そうがっかりしないで。 まだ始まったばかりで、あと十もチャンスがあるんですから」
 ウォーレンは決断力に乏しい性質らしく、何度も自分の手を見ては迷い、結局中途半端な大きさのカードを出して、取られてしまうのだった。
 まごまごしながら、ウォーレンは口ごもった。
「わしは田舎者で、こういう都会のゲームには慣れておらなくて」
「すぐ慣れます。 病み付きになりますよ」
 ラルフの言葉に、ジェレマイアが膝を叩いて笑った。
「そんなことになったら、彼は奥方と一戦交えなきゃならなくなるぞ。 ウォーレン夫人は節約の大家だから」
 つまり、ケチで有名ということだった。 財布の紐を握られているらしく、ウォーレンは小さくなっていた。

 ラルフの腕がよかったので、ウォーレンと組んだラウンドは負けたものの、ニトリックの失点ですんだ。 次はパートナーを交換し、ラルフはアシュダウンと、ジェレマイアはウォーレンと組むことになった。
 ディーラーになってカードを配りながら、ラルフはウォーレンに尋ねた。
「ずっとこの土地にお住まいで?」
「ええ。 離れたことはありません。 ちょっとした旅行以外では」
「ここはいいところですねえ。 景色が素晴らしいし、食べ物が豊富で」
「そうです。 特に夏は。 波の穏やかな入り江がありますし、ボート遊びにはうってつけで」
「残念ながら舟は持ってないんですよ」
 ラルフは笑った。
「次男坊でね。 財産はすべて兄のものです」
「先祖代々の土地を守るためには、仕方のないことです」
 珍しくウォーレンがきっぱりと言った。 袖飾りを直しながら、ラルフは続けた。
「まあ、遊びで命を落としたくはありませんからね。 今年の夏に事故があったそうじゃありませんか」
「ええ、まあ」
 ウォーレンはあまり話したくなさそうだった。
「あの人たちは酒に酔って、ちゃんとした準備をせずに沖へ出たんです。 そこへ嵐が来て遭難した。 不注意です」
「一緒に乗ってなくてよかったですね。 お友達だったんでしょう?」
「いや、軽い知り合い程度の仲で」
 声が小さくなった。 不快そうな表情になったのを見て、ラルフは話題を切り替えた。
「骨休めならコーンウォールをお勧めしますよ。 景色はいいし、気候も穏やかだ。 老若男女だれでも楽しめます。 いや、ウォーレンさんがお年というわけではありませんが」
「始終馬に乗りますからな。 節々が痛みますよ」
 ようやく笑顔を見せて、ウォーレンは答えた。


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