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13

 そっけなくされたせいで、ラルフはいくらか意地悪な気持ちになり、声だけはやさしく、こう言った。
「漁師や農婦のほうが話しやすいですかね」
 きれいな首をすっと伸ばして、ハーミアは負けずに言い返した。
「年が近いですから」
 あれ ―― 一本取られたと、ラルフが苦笑いしているうちに、ハーミアは籠を料理人に託して居間へ去った。

 イーサン達の差し入れのおかげで、夕食は豪華になったが、旅疲れのせいか、雰囲気は盛り上がらなかった。
 早馬が来て、キースが少なくとも後一週間は来られないと告げたため、よけい空気が湿った。
 ユーナは露骨にがっかりしていた。
「ほんとに、どうして引き止めるのかしら。 キースは軍事の専門家じゃないのに」
「ナポレオンはそれだけ手ごわいということです。 休戦した今のうちに策を練っておかないと」
 真面目に答えるアシュダウンを、ユーナは恨めしそうに見た。
「軍隊にはあれだけたくさんの人がいるのに? 将軍だけでも二十人はいるんでしょう?」
「お寂しいでしょうが、気がまぎれることはいくらもありますよ」
 早耳のラルフは、表に止まった馬の気配を聞きつけていたらしく、戸口に顔を向けた。 すると案の定、ウェスという男の召使がそっと入ってきて、ユーナに手紙を渡した。
「地主のクラーク様のお使いです」
 受け取って中をあらためたユーナは、すぐに一同に披露した。
「明後日にパーティーをやるんですって。 さっそくのご招待だわ」
「ほらね」
と小声で言って、ラルフは生カキを喉に流し込んだ。


 翌朝、まだ薄暗いうちに起き出し、身支度を整えていたラルフは、軽やかな足取りが廊下を遠ざかっていくのを聞きつけて耳をすませた。
 女中のグィネスだろうか。 足音は階段を下りていく。 窓に近づいて見下ろすと、裏口からグレイのコートをなびかせてボンネット姿の少女が出かけるところだった。
「おっと。 誰かと待ち合わせかな」
 自分も急いでマントを取って、ラルフは後をついていくことにした。

 ここは田舎だ。 住民は日の出と共に起きるので、むしろ朝早いほうが人目につく。
 小道を歩くハーミアは、鈴を鳴らしながら牧草地へ向かう羊の群に行く手をはばまれ、立ち止まって羊飼いと挨拶を交わしていた。
「おはようさん。 ひとりでほっつき歩いちゃ危ねえよ」
「教会へ行くの。 お墓参りにね」
「そうか」
 羊飼いは敬虔にフェルトの帽子を取り、胸に当てた。
「気の毒に、嬢ちゃんの家族はどれがどれかわからず、いっしょくたに埋められちまってるんだね」
「寂しくないでしょう、きっと」
 気丈に答えると、ハーミアは手を振って、また歩き出した。 その後を、気付かれないようにラルフがそっと追っていった。


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