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中では荷物の割り振りが始まっていた。 二台目の馬車で来た従者たちが、それぞれの主人の持ち物をより分けている。 その傍らで、ユーナがてきぱきと指示を出していた。
「アシュダウンさんは南の角部屋で、バートンさんはその隣り。 よろしいかしら?」
最後の言葉は、ドアから入ってきた紳士二人に向けられたものだった。 ラルフはすぐににっこりと頭を下げたが、アシュダウンはぜいぜい言いながら一つだけ注文を出した。
「その部屋に暖炉はありますかな?」
「ございますよ」
ユーナは胸を張った。
「二階の四部屋にはどこも暖炉をすえつけてあります。 真冬でも暖かく暮らせますわ」
「それは結構」
ほっとして、アシュダウンはさっそく荷物運びの従者と共に階段を上がっていった。
喉のかわいたラルフは、女中の後についてぶらぶらと台所へ行った。 すると、裏口のところでハーミアが立ち話をしているのが目に入ってきた。
相手は、日に焼けた若者と娘だった。 粗末な身なりからして、村の者らしかった。
「タラとニシンと、カキ? まあ、初めてだわ。 こんなに大きくて立派な貝殻なのね」
「これまでは夏にしかおいでにならなかったからね。 秋から冬にかけてはカキのうまいシーズンなんですよ」
自慢そうに、若者が山盛りの籠を突き出して、ハーミアに手渡した。 覗きこんで、ハーミアは笑い声を上げた。
「まあ、エビがはさみを振り上げて脅してるわ」
「ゆで上げてソースあえにすると、うまいのなんのって」
「ありがとう、イーサン。 全部でいくら?」
「いいんですよ」
イーサンと呼ばれた若者は、にやりとした。
「ハーミアさんのお口に入れば光栄ってなもんで」
そばに並んだ娘がわざとすねてみせた。
「この辺の男連中はみんなそう。 ハーミアさんのためなら火の中水の中なんだから」
「これ、マティ」
マティはそばかすだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。
「かまわないけどね。 どうせ手の届かない高嶺の花なんだから」
面と向かってそう言われて、ハーミアは顔を赤らめた。
「そんな皮肉は言わないで、マティ。 ブロンやカーチャは元気?」
「みんな元気ですよ。 エイダは隣村へお嫁に行っちゃったけどね」
「エイダが!」
ハーミアはびっくりした。
「たしかまだ十四じゃなかった?」
「来月で十五。 この辺りじゃ珍しくないですよ」
壁に並べられたりんご酒の瓶を取りながら、ラルフはハーミアの横顔を観察していた。 馬車に乗り合わせたときとは別人のようだ。 冷たい美人の典型だと思っていたが、下々の者にこんなに気さくだったとは。
二人の村人が楽しそうに帰っていった後、まだ頬に笑みを残して、ハーミアは籠を机に置こうとして向き直った。
その視線がラルフの探るような目とぶつかった。 たちまちハーミアの笑顔は引っ込み、表情が硬くなった。
ラルフは進み出て籠を受け取ってやった。
「お、意外に重いですね」
「ええ、いつもたくさんくれますから」
声も他人行儀だった。 さっきとまるで態度が違うじゃないか――ラルフは白けた気分になった。
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