表紙
―氷の城―17

 葬儀は二日後に執り行われた。 アストリッドは塔から出ることを許されなかったが、マーサが息を切らせながら上ってきて、いろいろ教えてくれた。
「国王陛下までわざわざおいでになったんですよ。 盛大で、悲しみに満ちていて、殿様にふさわしいお葬式でした」
「そう」
 そっけなく、アストリッドは答えた。 塔は城の一番奥深いところにあり、寺院から離れていて、まったく気配も感じられなかったのだ。
「それで? 誰が儀式を司ったの? 弟君のユアン様? それとも……」
「もちろんバートラム様ですよ!」
 そのバートラムの乳母だったマーサは、顔中を輝かせて叫んだ。
「城中の者が、下働きから古参の部下までほとんど全員、バートラム様を望んだんです。 国王のエドワード様もバートラム様が勇敢で賢い騎士なのをよくご存知で、もう後見人の必要な年齢ではないと、ユアン様の訴えを退けられました。 ユアン様は湯気を立てて、葬列がまだ続いているのに馬に飛び乗って帰っていかれましたよ」
 よかった――とりあえずほっとして、体の力が抜けた。 これで先代の決定は守られるだろう。 自分の役目は終わったわけだ。
 そのとき、静かにドアがノックされた。 ケイティが入ってくるときにはノックなどしないので、アストリッドは驚いて、椅子から立ち上がった。
 マーサが戸口へ急いだ。 そこに立っていたのは、初めて見る顔の若い従者だった。
 部屋中に響くほど甲高い声で、彼は呼ばわった。
「マーサ・ドリスコル様はおいでですか?」、
 自分に用とは思わなかったマーサは、びっくりして少年を見返した。
「え? 私だけど」
「バートラム様が至急の用事でお話ししたいと。 すぐ一角獣の間においでください」
 バートラムと聞いて、マーサは大あわてで降りていった。
 アストリッドはまた一人になったが、気分はいくらか回復した。 葬儀から何からすべてにのけものにされているのが悔しくて、ケイティに言い含めて様子を見に行かせているのだが、彼女が帰ってくるのを待つまでもなく、マーサからいろいろ聞き出せたからだ。
「みんなが私を忘れてしまってるわけでもないんだわ。 もうくよくよするのはよそう。 なるようにしかならないんだから」
 そう割り切って、アストリッドは窓に寄って鎧戸を押し開き、春の空気を入れようとした。
 そのとき、ふっとよろめいて転びそうになった。 壁に手をついて転倒をまぬがれようとしたが、その壁がずるっと後退したため、いっそうバランスを失って、床に座り込んでしまった。




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