表紙
―氷の城―4

 日が落ちると同時に城門は閉鎖される。 その直前に通ることができて、アルマンゾはほっとしていた。
「なんとか間に合ったな。 今日のうちに出てきてよかった」
「ソーンダイク殿はまだ警備隊長をしているの?」
「そのはずだが。 おーい」
 城の薄暗い前庭で、大きな焚き火をたいてたむろしていた兵士に、アルマンゾは尊大な口調で呼びかけた。 一番端にいた若い男が、気の進まない様子でゆっくりと歩いてきた。
「何だ?」
「隊長はガレス・ソーンダイクか?」
「そうですよ。 隊長に御用ですか?」
 少し態度が丁寧になった。 すかさずアルマンゾは銀貨を握らせ、小声で頼んだ。
「ワイルストンのデラメアが来たと伝えてくれ。 至急殿様にお目にかかりたいと」
「わかりました」
 うれしそうに銀貨を脇に下げた袋に入れると、男は城の裏手に消えた。

 やがて、樫の木のようにがっしりした男が現れ、アルマンゾと握手を交わした。
「これは遠路はるばると。 広間へお入りなさい。 馬も疲れているでしょう。 ジョン! この方達の馬をあちらへ連れていって飼葉をやれ。 ちゃんと面倒をみるんだぞ」
「わかりました」
 馬と従者が連れられていく横を、アルマンゾとアストリッドも城内へ歩き出した。 マントのフードを深く引き下ろしたアストリッドをちらちら見ながら、ソーンダイクはさりげなく尋ねた。
「奥方か?」
「いや、妹だ」
「ほう」
 興味を沸かした様子で、ソーンダイクは思い出そうとした。
「エセルリード殿か、またはミルドレッド殿かな?」
「いや、末のアストリッドなんだ」
 ソーンダイクは目を丸くした。
「あの小さかった嬢やか? これは驚いた。 いくつになられたのかな?」
「十七だ」
 肩を揺すって、ソーンダイクは含み笑いをした。
「もうそんなになるか。 俺も年取るわけだ。 故郷を離れて、はや十年か」
 夕暮れて再び風が強くなってきたので、ソーンダイクは吹きさらされて首をすくめた。
「また冷えこんできたな。 こっちです。 二人ともお入りなさい」
 大戸を開くと、とたんにざわめきが聞こえてきた。 うまそうな肉の焼ける匂いもただよってきたので、アルマンゾは思わず目をつぶって鼻をひくひくさせた。




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