やがてファンティーヌは次第に落ち着き、中に二人の青年を招き入れるまでになった。
居間と食堂を兼ねた部屋は広く、磨いた銅鍋が幾つも壁に下がっていて、家の持ち主が貧しくないのを示していた。 ファンティーヌは、穏やかで幸せな生活を送っているらしかった。
無骨ながらがっちりした木製の椅子に腰掛けようとすると、地酒をコップにつぎながら、ファンティーヌがはにかんだ小声で言った。
「うちの人が作ったのよ。 無口だけど働き者で、気持ちが優しいの」
パトリスは、わずかに微笑んだ。 ほんの少し口元を緩めただけなのに、ファンティーヌがひどく驚いたのには、こっちがびっくりした。
「まあ……あなたが笑うなんてことがあるのね。 まるで氷の像みたいにかちかちだったのに」
パトリスの隣に座ったミシェルが、笑いかけたのを誤魔化そうとして、横を向いて咳をした。
そして、頼みもしないのにパトリスを弁護した。
「隊長は新婚ほやほやなんですよ。 人生で一番楽しい時期で」
「結婚? あなたが?」
信じられない顔のファンティーヌに、パトリスはやむなく答えた。
「妻はポーレットだ。 覚えているかい? 君の後に連れてこられた」
ファンティーヌは大きく息をつき、胸に両手を当てた。
「ポーレット……! 天使のような人だった」
「今はわたしの天使だ」
「奥さんのために、隊長は首領を殺したんですよ」
「ああ、わかるわ」
ファンティーヌの声に、うっとりした響きが加わった。
「私が男で力があったら、ポーレットのためにそこまでしたかも」
少なくとも一人は、自分の人生を取り戻した。
しっかりした作りの家を出て、パトリスは大きく深呼吸した。
これでいくらか、心の痛みが軽くなったのが、自分でもわかった。
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