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Chapter U-4


 パリからサン・マロまでは、直線距離で三百キロ足らずだが、ドリュー、アランソン、マイエンヌ、フージェールと街道筋をたどって行くと、それより五十キロは余分にかかる。
 休憩や睡眠を入れて二日かけて、パトリス一行はモン・サン・ミシェルに臨む海辺に到着した。
 地元で後ろ暗い行為をしていたパトリスとピエールは、念のため髭を剃らずに顔の下半分を無精ひげで覆い、かつらを被った。 その上にピエールは眼帯までつけたので、それではお前が海賊と間違われる、とずいぶん仲間にからかわれた。


 聞き込みは、もっぱら話し上手のミシェルが担当した。 彼は、栗色の髪をした青年で、暖かい笑顔の持ち主だ。 だから、女性はもちろん、男性にも好かれた。
 それに、軽いブルターニュ訛りがあって、簡単に地元民に解け込むことができた。 残りの三人が目立たぬよう酒場の隅で食事している間に、ミシェルは早くも四人の村人に話をもちかけ、海賊船が座礁した後どうなったか、情報を仕入れた。


 漁民や山羊飼いの連中に酒をおごった後、ミシェルは興奮ぎみに戻ってきて、パトリスに報告した。
「確かにアラブの船だったそうですよ。 半分ぐらいは溺れ死に、残りは浜にいた漁師たちと戦って殺されました。
 積んでいた船荷は流されてしまったと、連中は言ってますが、まあほとんどは横取りしたんでしょう。 そして、乗せられていた娘たちは、あちこちから集められて六人ほどいたらしいんですが、二人は水死。 二人は、しばらくこの酒場で働いていて、そのうちに客とねんごろになって去っていったそうです」
「あとの二人は?」
「一人は、溺れるところを助けてくれた若い漁師と恋仲になり、婚礼を挙げたとか。 この娘は白に近い金髪だそうなので、隊長の探している子じゃありませんね」
「じゃ、もう一人は!」
 酒が回って赤い顔をしているミシェルは、ニヤッと口元をほころばせた。
「それなんですよ。 濃いめの金髪に緑がかった瞳。 たぶん目当ての子にまちがいないと思うんですが」
「それで?」
 パトリスが身を乗り出すと、ミシェルはやや困ったように、頭に手をやった。
「コリンヌと名乗ったらしいです。 偽名を使ったんでしょうね。 で、そのコリンヌは、サン・マロの町にいます」
 一息置いてから、ミシェルは最後の情報を語った。
「羽振りのいい商人の家で、働いているということです」



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