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ケーキを作ろう! 4


 博は国分寺を乗り越して国立まで来た。 母親は働いているし、弟や妹たちは中学校、小学校、保育園で、まだ休みにはなっていない。
「今日は5時にオレがユリノキ保育園に迎えに行くんだ」
「まだ11時半だから、帰りの時間入れて4時間はたっぷりある」
「マミちゃんのお母さんが昼飯作るのに邪魔にならないかな」
「お母さんはいないよ。 パートに出てる」
「ああ、そうだった」
  さっき電話をかけたことを思い出して、博は頭に手をやった。

  駅近くのファーストフード店で軽く昼食を取ってから、2人は真美子の家に向かった。 駅からバスで7分ぐらいのところにある、ごく普通の二階建ての家、それが真美子と両親のマイホームだった。
「一人っ子?」
「そう」
「なんか、うらやましいな。 全部独り占めできるし」
「私は、兄弟がいる人がうらやましい。 いいことも悪いことも全部ひとりでかぶるでしょう? 結構疲れる」
「はあ」
  今ひとつ納得が行かない様子で、博はあいまいな返事をした。

  木をふんだんに使ったアメリカン・カントリー風のキッチンを見て、博は心からうらやましそうになった。
「ここの写真、撮っていいか?」
「ん? いいけど、なぜ?」
「おかんに見せる。 こういうの欲しいって言ったら、オレが稼いで作ってもらう」
「なんか……すごいね」
  闘志むき出しの博に、真美子はたじたじとなった。

  近藤少年の強烈なファイトは、卵を泡立てるときに大いに役立った。 電動泡だて器を貸すというのに、博はごく普通の泡だて器を剣のように構え、ヤーッと奇声を発しながらガチャガチャ混ぜまくった。 真美子が大笑いするので、もっと笑わせてやれという気分になったらしい。 『カクテル』で見た空中投げ! とか言ってクリーム状になった卵がついたままの泡だて器を放り上げて、流しに飛び散らせてしまった。
  まあ、いろいろと脱線はあったが、ケーキのたねは15分ほどで出来上がり、真美子がキッチンペーパーで薄くサラダオイルを塗った内釜に半量を流し込んだ。 後は炊飯ボタンを押して、待つだけだ。

  2人は並んでソファーに座り、なんとなく微笑み合った。 これまで同じクラスだったのに一度も話したことがなかったのが嘘みたいだ。 一緒にいると居心地がよかった。
  リビング+キッチンには、ケーキ作り特有の甘やかな香りが漂っていた。 ケーキの飾りつけは、焼けたスポンジ台を持って帰って弟妹たちと一緒にやると博が言うので、差し当たってすることはもうなく、ふたりはのんびりした気分だった。
「動かすのは冷えてからのほうがいいよ。 あったかいうちに触りまくると、しぼんじゃうんだって」
「ふうん」
「あ、私が作ったケーキ、見てみる?」
「うん! どういう風に飾るもんか、見せて」
  さっそく真美子は棚にフードをかけて置いてあった丸いケーキを出してきた。 いろいろ工夫して、ゼリーの細切れを散らしたり、雪だるま型に焼いたクッキーを立てたりしてある。 博は感心して、あちこちの角度から眺めた。
「よくできてんなあ」
「ちょっとぐらい失敗しても、茶こしか網で粉砂糖やココアの粉を振りかけたら、きれいに隠れるから」
「そうだよな」
  博が楽しそうに相槌を打った。 そして、参考にと言って、また携帯で写真を3枚ほど撮った。

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