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ケーキを作ろう! 3


 生クリームは念のため、チューブに入ったものと、植物性のと、2種類買った。 それでも割引品を選んで籠に入れていったため、1058円でトッピングまで揃ってしまった。
「ジャムとバナナはいつでもあるんだよ。 弟たちがおやつに食ってるから」
「うちのはブランデー入れたけど、4つの子が食べるんなら、止めた方がいいね」
「うん」
  駅に入ると、近藤はにこっとした。
「オレもこっちから帰る組なんだけどさ、あんまり会ったことないな」
「うん。 私は帰宅部だし、近藤くんは帰りが遅いから」
「近藤くんはよそう。 他人みたいに聞こえる。 コンちゃんと呼んで」
  クラスの花形をコンちゃん呼ばわりできる。 なんだか真美子の頬が熱くなってきた。
「じゃさ、私はマミだからね」
「呼び捨て? ちゃん付け?」
  おおっ、呼び捨てって……まるで彼女だ! 勝手に顔が赤くなるので、真美子は困った。
「……どっちでも」
「じゃあ、マミリンとか」
「わー、それは止めて!」
  騒いでいると、電車が来た。

  近藤博は国分寺駅で降りる。 真美子は国立まで行く。 小金井の駅を過ぎたあたりで、真美子は落ち着かなくなった。 2度、作り方を詳しく教えたが、ちょっと難しいところがある。 卵を泡立てるところなんだけど……
「泡だて器、使ったことある?」
「ないな。 包丁なら毎日使ってるけど」
  毎日? ちょっと驚いた真美子に、博は淡々と説明した。
「うち母子家庭なんだ。 トラック転がしてた親父が事故って」
  交通事故か…… しんみりしてしまった。 博は何もつかまらないでふんばっている足を示して言った。
「こうやってバランス鍛えてる。 どこにいても意識してるんだ。 早くいっちょ前になって親に楽させてやりたい。 プロのセレクションに入ったら、学校中退して行く」
  真美子は頭がキュッと引きつるのを感じた。 まだ高校2年だから、これまでのんびりしていた。 社会に出る実感なんかまるでない。 親は当然大学に入るものと決めているし、自分でもそう何となく思っていた。
  そんな自分が、コンちゃんに対して悪いことをしているような気持ちがしてきた。 甘い、と心の中で言われているような気持ちが。
  後ろめたさに似たものが、ふっと真美子の背中を押した。 思わず声が出ていた。
「手伝う。 一緒にやろう。 うちに来ない?」

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