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ケーキを作ろう! 2


 

「ふうん」
  他に思いつかなかったので、真美子は間延びした声でそう返事した。 すると、中肉中背のサッカー少年は、ポケットに突っ込んだ手を引き出して話し始めた。
「俺ん家さ、兄弟5人なんだ。 だからクリスマスケーキ腹いっぱい食ったことがなくて。 分けちゃうとこれっぽっち」
と、大きさを手で示して、
「なんかさっきの話聞いてたら、千円ちょっとで2個作れるみたいだから」
  確かにそうだ。 菓子つくりが趣味の真美子は、ぐっと乗り気になった。
「うちの炊飯器古いけどちゃんとできたよ。 だからたいていので出来るんじゃないかな」
「教えてもらっていいか?」
  何だか遠慮がちに、近藤博は尋ねた。 真美子はあっさりうなずいた。 明日から冬休み。 成績は思ったよりよかったし、気分に余裕があった。
「要るのはね、ええと、卵1パック、砂糖1袋に薄力粉が……」
「待ってくれ」
  あわてて、近藤博がごそごそと生徒手帳を出した。
「初めから」
「いいよ。 でも」
  まず買ってしまったほうが早い、と真美子は思いついた。
「スーパーに行こう。 たぶん1軒で全部そろうから」
「やり!」
  真美子がついてきてくれると知って、近藤の顔がぱっと明るくなった。

  レシピの細かい部分となると、さすがに覚えていない。 近藤と並んで歩きながら、真美子は母がパートで勤めているコスメ・ショップに電話をかけて、分量を確かめた。
「ええとね、1回焼く分が、卵5個、砂糖150グラム、薄力粉120グラムだから、その倍あればいい」
  細いボールペンで必死に書いていた近藤が、首をかしげて訊いた。
「なんか初歩的な質問かもしらんけど、ハクリキコって何だ?」
「ああ、普通の小麦粉のこと」
「じゃあそう言えばいいじゃん」
「他にね、強力粉ってのがあって、ねばりが強いの。 だから区別するため」
「はあ。 奥が深い」
  妙な感心の仕方をしている。 普段の隼のような近藤とはまるで違うので、真美子は笑いたくなったが、馬鹿にしていると思われたらいけないから、懸命に真顔を作った。

  駅前の大きなスーパーには全てあった。 ありすぎて目移りするほどで、飾りに使うフルーツ缶をどれにするか、15分も迷ってしまった。
「粉砂糖、買った?」
「砂糖、これ」
「その袋のじゃなくて、上から雪みたいにかけるやつ」
「あー、わかんね」
「じゃ私買ってくるね」
「わるい!」
  そんなことを繰り返しているうちに、ふたりはすっかり打ち解けた。

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