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星並べ 23


 まずブライアンが手早くトビーの渡した正装を身につけて抜け道に這いこみ、それからエドナ、最後にトビーがドアを建材でうまく隠してから入ってきた。
  初めは膝をついて行かないと進めなかったが、10歩ほどでトンネルは立てる高さになった。 幅も4フィートほどに広がり、両脇においてある酒瓶をよけても充分歩くことが出来た。
  やがて磨り減った石段が見えてきた。 それを上ると木戸で蓋がしてあって、押し開けて出たところは酒場の裏庭だった。
「こういうわけだ」
  と、トビーが声をひそめて言った。
  ブライアンは前かがみになって、エドナを強く抱きしめた。
「これから交渉に行ってくる。 僕にとっては最後の賭けだ。 うまく行くことを祈ってくれ」
「全身全霊で祈るわ」
  2人がキスしている間、トビーは油断なく周囲を見回していた。
  やっとの思いでエドナから体を離すと、ブライアンはすぐトビーに近づき、決意を秘めた声で言った。
「うまく行ったかどうかは明日かあさっての新聞を見ればわかる。 もし不首尾だったら、どうかエドナとエルシーを守ってやってくれ」
  ぎくっとして、トビーは自分とほぼ同じ高さにあるブライアンのきらきら光る眼を見つめた。
「……引き受けた」
  2人はがっちり握手を交わした。 ブライアンは燕尾服の襟を立て、大きな影となって建物の背後に吸い込まれていった。
  すぐにトビーはエドナの肩に手をかけ、酔っ払いのふりをして通りに出た。 表通りまで出ると、短いマントをひるがえして警官がパトロールしていたが、いちゃいちゃしているほろ酔いカップルを見とがめる者は誰もいなかった。
 
  安全な場所まで遠ざかった後、トビーは見違えるほどきびきびと、エドナを最寄の公衆電話に連れて行った。
「今日帰るはずだったんだろう? エルシーが心配してるよ、きっと」
  トビーの心遣いに感謝しながらエドナが交換手に番号を告げると、すぐジョアナが電話口に出た。
「ドナ? どうしたの?」
「あの、うまく汽車の切符が買えなくて。 明日は一番に帰ります」
「そう。 待ってるわ」
  ブライアンのことを言いたかった。 今にも口からこぼれ出しそうになったが、ぬか喜びさせてはあまりにも残酷なので、エドナは必死に秘密を守った。
「じゃ、おやすみなさい」
「気をつけてね」
「はい」

  受話器を置いた手が小さく震えているのを見ながら、トビーが言った。
「きっとうまく行くよ。 俺の勘は当たるんだ」
  本当にそうだといいが。 エドナは懸命に明るい声を出した。
「これからどうする?」
「まずあんたを部屋まで送る。 まだあそこに泊まれるか?」
「ええ、来月分まで払ってあるから」
「そりゃよかった。 俺は2,3日姿を消すよ。 あんたの彼氏が結果を出すまで」

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