相変わらずのトビーを見たとたんに、エドナは悟った。 この男だったのだ。 訪ねてきた金髪男は。
がっかりしたと同時に、心の片隅で胸を撫で下ろして、エドナは彼にちょっと笑いかけた。
「無事だったのね」
「あんたもな」
ぶらぶらと近づいてきながら、トビーは軽く首をかしげた。
「なんか雰囲気が違うな。 おとなっぽい格好してるからか?」
「もう若作りはやめたのよ。 ほんとの年は24」
エドナが正直に言うと、トビーは別に驚いた様子もなく、軽くうなずいた。
「まだてんで若いよ。 ヘレンが妬いたのは無理ねえな」
その名前を聞くと、未だにエドナは落ち着いていられなかった。 恐怖で心臓がびくっと跳ねた。
「ヘレンは……」
「バラされた」
食いしばった歯の間から、トビーは言葉を押し出した。
「あんなに俺を頼っていたのに、守ると兄貴に誓ったのに…… 俺のせいで、ヘレンは……」
兄貴に誓った? 意外な言葉だった。 今の今まで、エドナはヘレンがトビーの恋人だとばかり思い込んでいた。
「じゃ、ヘレンは」
「戦死した兄貴のかみさん」
エドナの視線が揺れ動いた。 それならあの当時、ヘレンとエドナは愛する人を失ったという、共通の立場だったのだ。 それなのに、エドナはヘレンから剥き出しの敵意を感じた。 なぜヘレンはあんなにエドナを嫌い、逃走用の自動車まですっぽかしたのだろう。
理由は一つしか考えられなかった。 言おうかどうしようか少し迷ったが、結局エドナは口に出してしまった。
「でも彼女、私の若さっていうより、私があなたのそばにいることをひどく嫌がってたわ。 それってあなたのことが好きだったからじゃない?」
トビーは肩をすくめる動作をしてみせただけだった。 そうだとも違うとも言わない。 だが、ヘレンの気持ちに気付いていなかったはずはないと、エドナは思った。
「また出かけるのか?」
不意に問われて、エドナは我に返った。
「ええ」
「妹はどこ行った?」
「エルシーは人に預けてあるの」
「そうか。 いよいよ足を洗うんだな」
相変わらずトビーは鋭かった。
「荷物持ってやるよ」
そう言うなり、エドナが右手に下げていたバッグを奪うように取って、トビーは彼女と並んで歩き出した。
「鉄道の駅か?」
「そう。 南へ行くの」
「あったかい方か。 いいなあ」
トビーは目を細めて、しんみりした声を出した。
「俺はさ、ワイト島に住みたかったんだ。 羊なんかいて、面白そうだ」
都会っ子そのもののトビーがのどかなワイト島に? エドナはその光景を想像しようとしたが、どうしてもできなかった。
口調を変えずに、トビーはさりげなく続けた。
「もうたぶんどこにも行けない。 最後にあんたの無事だけは確かめたかったんだ」
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