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星並べ 9


 リリーは唾を飲み下した。 この男は手玉に取れない。 すぐそう実感した。
  彼は手をゆるめ、顔をほころばせて、にっと笑った。
「脅かす気はないけどさ、頼みを聞いてくれないなら、警察署にたれこんでもいいよ」
「脅してるじゃない」
「頼んでるんだよ。 騒ぎを起こして気をそらすからさ、その隙に抜き取ってほしいんだ」
「財布?」
「いや、手紙」
  リリーは上目遣いに男をじっと見つめた。
「あんた誰?」
「名乗ってなかったっけ?」
  男はとぼけた。
「トビーっていうんだ。 トビー・パーカー」
「それで、仕事は?」
「探偵」
  探偵か…… ようやくリリーは納得がいった。
「浮気調査ね」
「そういうこと」
「金になる仕事なんだ」
「まあな」
「4割」
  トビー青年は、きれいな顔をしかめてみせた。
「冗談言うなよ。 こっちはもう一週間もこの仕事にかかり切りなんだ。 一回指を使ったぐらいで4割? 笑わすねえ」
「3割5分」
「1割がいいとこだ」
「3割」
「1割5分」
「2割。 これ以上は1ペニーもまけないよ」
  トビーは口をとがらせたが、しぶしぶ承知した。
「転んでもただは起きねえな。 よし、手打ちだ。 うちに来な。 前金で2ポンドやるよ」
「5ポンド」
「また始める気か。 3ポンド」
「3ポンドと10」
「わかったよ、3と10だな」
  2人が話しながら遠ざかっていくのを、ラッキー・ジョーがこっそり尾行していった。


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