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星並べ 7


 不毛な戦争は、結局4年間も続いた。 アメリカが参戦しなかったら、更に長引いたかもしれない。 新聞やラジオの報道に一喜一憂する毎日で、戦死者の公表がひっきりなしに続き、街は春も夏も灰色になった。
 
  だが、すべてに終りはある。 うすら寒い11月半ば、カイゼルが降伏して、ようやく長すぎた持久戦は終結した。
  道では、ニュースを聞いて出てきた人々が自然に輪を作り、手を取り合って踊った。 久しぶりに明るい歌声が響き、砲声のない日常が戻ってきたのだ。
 
  終戦が布告されても、戦闘がすぐに終わるわけではない。 戦後に死んだ兵士の数の方が戦中より多かったという地域まであるそうだ。 しかし、ブライアンは生き延びた。 12月に入って、クリスマスまであと1週間足らずという曇り空の朝、エドナは一通の電報を受け取った。 胸を高鳴らせて開けると、夢のような字が目に飛び込んできた。
「ブライアン・マーシュ!」
  あわてて破りそうになりながら、エドナは懸命に読みにくい電文をたどった。
「サザンプトン港に02:06到着。 君の元に直行する」
  ブライアン… 電報を胸に抱きしめて、エドナは目をつぶった。 じわじわと体が温かくなり、やがて心臓が胸を突き抜けるほど高鳴り始めた。


  帰還兵や買出しの乗客で、列車はどれも身動きできないほどの混みようだった。 しかも大幅に遅れることが多い。 エドナは3つになって可愛い盛りの娘をブライアンに見せたくて、連れてこようとしたのだが、大家に叱られてしまった。
「とんでもないよ、あんなごみごみした空気の悪いところに、小さな子を連れて行くなんて。 悪い風邪がはやってるのを知ってるだろう?」
  だからやむを得ず残してきたが、残念だった。 女の子の誕生をあんなに楽しみにしていたブライアンに、何を置いても真っ先に会わせたかったのだ。

  列車は山盛りに人を乗せて次から次へと到着し、駅に吐き出して、また出発していった。
  エドナは待った。 汽車が止まるたびに首を痛くなるほど動かして、端から端まで急いで眺め、それから改札近くまで後退して、ブライアンのすらりとした姿がやってくるのを逃すまいとした。
 
  23時12分、最終列車が車庫へ入るために駅を離れた。 もう人々の数はまばらで、エドナのようにただ立っている人間は一人もいなかった。 みな荷物をまとめたり、出口を求めて歩いたりしている。 もうじき駅は、明日の朝まで閉鎖されるのだった。
  線路に近づいて点検している駅員に、エドナは疲れた足取りで近づいた。
「あの、もう汽車は来ないんですか?」
  振り向いたいかつい顔は、可憐なエドナを見るといくらかなごんだ。
「ああ。 明日の朝の始発までね」
  どうしたんだろう――エドナは両手を握り合わせながら、南に続く線路を見渡した。 何が起きたんだろうか。
「乗り遅れたのかしら」
  駅員はやさしくうなずいた。
「そうだよ、きっと。 港は大変な混雑だ。 みんな1分でも早く故郷に帰りたいからね。
  あんたの待ってる人は、たぶんうまく切符を手に入れられなかったんだろう」
  ほっとして、エドナは微笑んだ。
「じゃあ明日ね。 明日こそあの人に会えるんだわ」
  いそいそと帰っていく後ろ姿をちょっと見送ってから、駅員はホームを掃き始めた。



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