表紙へ行く

星並べ 6


 やがて人々は、今度の戦争がこれまでのものと違うことを悟り始めた。 わっと戦って優劣を目に見える形でつけて、休戦協定を結ぶことができないのだ。 兵士たちは蛸壺のような塹壕〔ざんごう〕にこもり、身動きできない状態に置かれて、鉄条網と荒地の狭間〔はざま〕で一進一退を繰り返した。 突撃が命令されるたびに血が流れ、人命が大量に失われたが、はっきりとした戦果は上がらなかった。 塹壕から一斉に飛び出した若者たちは、まるで地面に吸い込まれるように奈落へと消えていった。
 
  戦火が及ばない町々でも、次第に暮らしが苦しくなってきていた。 戦時だから派手なものはいけないということで、帽子や服は地味なものに変わり、飾りの注文が減ったため、エドナは夕方からパブの手伝いに行くようになった。
 
 そんなある日、彼女は妊娠したことを知った。 誰に教えられたわけではなく、自分で自然に悟ったのだ。
  統制で薄暗くした明かりの下で、エドナはじっと考えにふけった。 夢に見た子供の誕生とはだいぶ違った形になったが、それでも生むつもりだ。 苦労は多いだろう。 稼ぎも足りない。 だが石にかじりついても子供と生き抜く覚悟だった。 ブライアンが戻ってくる、その日まで。
  エドナはすぐ手紙に書いた。 戦時郵便は届くのが遅くて、3ヶ月以上かかったりする。 無事届く保証さえない。 念のため、何通も書いて、下着を入れた小包と共に送った。
  ブライアンもせっせと書いているらしかった。 数日前に3通まとめて届いた。 シラミがわいているとか、大半が水虫に悩んでいるとか、ユーモラスに書いてあったが、エドナはとても笑えなかった。 あのきれい好きなブライアンが、そんな目に遭っているなんて……

  半年経って、エドナが金髪の女の子を無事出産したときも、戦争はまだ続いていた。 彼女が独身だということは知られていたが、時代が時代だから、周囲は思ったより優しく接してくれた。 出征前に別れを惜しんだことが未婚の母につながったのだ。 軍人の妻として見守ってやろうという空気があった。
  近所の差し入れのおかげで2週間子育てに専念できたエドナは、それでも15日目から、友達に半日子供を預けて働きはじめた。 男たちが戦場に去った職場には、若い女性が入る余地ができていた。
 
  兵器工場で半日働いて、くたくたになって戻ってきたエドナは、大家のハンクスさんから手紙を渡されて、ぱっと顔を輝かせた。
  それはもちろんブライアンからの手紙だった。 その場で急いで開けてみると、立ったまま急いで書いたのだろう、乱れた走り書きが並んでいた。
『ブラボー! 何と言ったらいいかわからない。 感激で目が冴えて、疲れているのに昨夜は全然眠れなかった。
  君と僕の子供――信じられない気持ちだ。 どんなにかわいいだろう! 1日も早く、勝って帰りたい。 赤ん坊を見たい!
  まだ生まれてないのに気が早いと言われるだろうが、もし女の子だったら、エルスペスとつけてほしい。 男の子だったら君の好きな名前にしてくれていいから。 ただしジェレマイアだけはやめてくれ。 小学校のときのいじめっ子の名なんだ。
  君の暮らしが心配だ。 僕の給料を受け取れるといいんだけど、正式に結婚していないからだめだと言われた。 苦しくて大変だったら、うちの住所を書いておくから、ここに手紙を出して母に頼んでくれ。 きっと快く出してくれると思う。
  愛してるよ、ドナ。 君と子供を守ってくれるように、あの星に毎晩祈るよ。
  どうかくれぐれも体を大事にしてくれ。 君も子供も無事に試練を乗り切って、元気な赤ん坊が生まれますように。
        君のブリーより』


表紙目次前頁次頁
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送