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OLたちがワイワイと退社してから四十分後、染小路〔そめのこうじ〕まき子は、出来上がった書類を読み返し、間違いや抜けがないのを確かめて、二穴パンチと綴じ紐できちんとまとめた後、書類ケースに収めた。
表通りの人形時計が賑やかに歌っているのが、かすかに聞こえた。
「セブン オクロック、 セブン オクロック
森のリスは お寝み♪
シルクハットを載せて フクロウ博士 登場♪」
「わっ、七時だ。 粕谷〔かすや〕が来てしまう。 急がなくちゃ」
急にあたふたし出したまき子は、地味な茶色一色のバッグをつかみ、ロッカールームに飛び込んでコートを引き出すと、大急ぎで羽織った。
エレベーターを出てからは、まるで真夜中のシンデレラだった。 猛烈な勢いでエントランスの石段を駆け下りたため、ガラスではないが本当に靴が脱げそうになった。
ハアハア言いながらビルの角を曲がったとき、ちょうど紺の制服に身を固めた粕谷がやって来た。 まき子はほっとして足を止め、壁に手をついて息を静めた。
悠々と横に来て、いかにもガードする態度で立ち止まると、身の丈百八十五センチ、体重(主に筋肉)九十五キロの粕谷は、重々しく口を開いた。
「お嬢様はむやみに走ってはなりません。 人前で重心を失い、万が一にも体勢を崩すようなことあれば、大変はしたないことで」
「あなたが走らせるのよ、粕谷」
まだ荒い息ながら、精一杯威厳をきかせて、まき子は言い返した。
「子供ではあるまいし、毎晩六時半にリムジンで迎えに来るなどと、時代錯誤もはなはだしい」
「これでも遠慮申し上げています。 目立たぬよう公園に停め、中でカーステレオを聞きながら、お帰りをひたすらお待ち申して……」
「嘘をお言い」
まき子の口調が厳しくなった。
「あなたがのどかに音楽など聞くものですか。 あの恐ろしげな『格闘技便覧』とか『世界の必殺武具』などという本をひたすら読みふけり、いつかその手で悪者をケチョンケチョンに……」
「そのような下々の言葉をお使いになること、この粕谷がお許しいたしません!」
「めった打ちに」
まき子はおとなしく言い直した。
「しようと考えているのでしょう?」
「さようでございます」
粕谷は誇らしげに胸を張り、巨体を更にいっそう大きくふくらませた。
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