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表紙

誓いは牢獄で  エピローグ2


 翌日、バージルはさっそく馬を駆って、州長官の館を再訪した。 そして、次の日の夕方にはもう戻ってくると、うまく行ったとコーネリアに報告した。


 決まったことは、次の通り。
 まず、バーンズは海で遭難したことにする。 表向きは貿易船の船長と発表するが、裏事情を知るホリスがとやかく言ってきたら、外国へ逃げるため密航して、海に落とされたと強引に言い張る。
 未亡人は三ヶ月ほど喪に服した後、バージルとの婚約を発表。 結婚の準備に入る。


 バージルの財力と政治力で、秘密結婚は何とか闇に葬ることができた。 そのためには、バージルはホリスをマデイラの農園の共同経営者にすることも厭わなかった。
「経営といっても名目上だけだ。 農場の収益を分けてやれば満足して、我々の結婚に文句を言わないだろう」
「私との結婚は高くつくわね」
 少ししょげたコーネリアを、バージルは笑いながら強く抱き寄せた。
「全収入の僅か二十分の一ほどだよ。 それに、君を得るためなら、何を差し出しても惜しくない」








 浅葱色の春から金色の夏にかけて、忙しく楽しい日々が続いた。
 コーネリアはバージルに連れられて、幾度もロンドンに行き、結婚式や、その後の新婚旅行のための衣装を、山のように揃えた。
 そのうちの一着を早めにまとって、バージルの領地を訪ねたときは、まるでお祭騒ぎだった。 途中で、トーマスの屋敷に立ち寄ったからだ。
 トーマスの父、ヘレシャム伯爵が健在なので、彼と家族は親の館の離れに住んでいた。 立派なチューダー形式の館は、広い草原の半ばにあって、羊の一群がのどかに草をはみ、コーネリアとバージルを乗せた馬車が低い門を入ると、放し飼いの鶏が慌てて左右に逃げまどった。
 すぐに、灰色のシャツ姿のトーマスが玄関に出てきた。 そのすぐ後ろから、新たな羊の群れのように子供たちが次々と現れて、バージルの手を借りて馬車から降りたコーネリアの顔をほころばせた。
「まあ、器量良しのお子さんたち!」
 子供達は皆そろって、大きなくりくりした眼をしていた。 長男らしい金髪の男の子が、年下の子たちを上手に並べ、客人に微笑みかけたため、感心したコーネリアは更に付け加えた。
「それに、立派なお行儀だわ」
「ありがとう!」
 子供を褒められるのは、どの親でも嬉しい。 トーマスは頬っぺたが落ちそうな表情になって、親友と恋人を歓迎した。
「来てくれましたね。 これが、うちの軍団です。 トーマス・ジュニア、ヘンリー、エリザベス、アナベル、マリアン」
 奥から、丸々太った赤ん坊を抱いた小柄な婦人が姿を見せた。 星の宿ったような茶色の瞳の持ち主で、はにかみ屋の十八歳にしか見えない。
 一息ついてから胸をふくらませ、トーマスは自慢そうに紹介した。
「そして、わたしの幼なじみで愛しい妻のホリー。 抱いているのは、今のところ末っ子のバージル。 この親友の名前を貰いました」
 こんな可愛らしい妖精みたいな人が、子供を六人も? コーネリアは思わず、はずかしそうに微笑んでいるホリーをしげしげ見つめてしまった。







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