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表紙

誓いは牢獄で  2


 ダーリンプルは腰を曲げて、うやうやしくお辞儀をすると、格子扉を開けた。
 とたんに、胸の悪くなる臭気がどっと流れ出た。 貴婦人はたじろぎ、中年紳士は顔をしかめてハンカチで鼻を覆った。
「なんだ、この家畜小屋よりひどい臭いは」
「監獄でやすからな、立派なお屋敷とはいきませんで」
「とても中には入れん。 悪い病気を吸い込みそうだ。 その囚人と、それに牧師とを外に連れてきなさい」
 ダーリンプルは渋い顔をした。
「いやー、牧師のほうはただ、借金を踏み倒しただけの軽い罪だからいいんでやすが、バーンズの方は……」
 耳ざとく名前を聞きつけて、貴婦人が尋ねた。
「死刑囚は、バーンズという名前なの?」
「へい、ジョン・ジェームズ・バーンズで。 サザックで強盗を働いたという、ふてえ奴でやす」
「強盗……」
 貴婦人の青空のような眼に、かすかな嫌悪の色がひらめいた。 そんな男を、たとえ数日でも夫にするのは気が進まないのだ。
 その様子を見てとって、紳士が励ます口調で言った。
「ただの方便です。 気に染まない縁組から逃れるための手続きだと割り切ってください」
「ええ、そうね。 もう他に手はないのだし」
 貴婦人は意を決し、樺色の手袋をはめた右手を上げて、ダーリンプルに合図した。
「手かせ足かせを外すのが大変なら、あと十ポンドあげます。 それ以上は望まないで。 ここが駄目なら他の監獄へ行ってもいいのだから」
「はい、只今連れてきやす。 少しだけお待ちを」
 あわてて、ダーリンプルは大きな腰を振り振り、扉の奥に入っていった。


 本当にすぐ、彼は二人を連れて戻ってきた。 僧服を着た男は、裾や袖口がすり切れている以外はまともな格好をしていた。 だが、ダーリンプルが腕を取って文字通り引きずってきた方の男は、まるでボロくずだった。
 かつては白かベージュだったらしいシャツは泥と埃にまみれ、ずたずたに裂けていた。 髪の毛は油じみて固まり、真っ黒な顔の上に乱暴に置かれたモップのように見えた。 蓬髪〔ほうはつ〕のせいで、垢だらけのむくんだ顔は半分以上隠れ、小さな片眼がかろうじて覗いていた。
 その眼が、じろっと貴婦人に視線を浴びせた。 なんともぞっとする冷たさで、彼女は反射的に顔をそむけてしまった。








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