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184 駆けつける
ジェンは胸が苦しくなるような思いを覚えた。
仲良したちとフィリーに来て、美しいドレスで付き添いをして、最後にジョーディの愛を知った情熱の秋。 私はあれから幸福の真っ只中を生きているのに、主役の花嫁だったエイプリルは……。
すっかり元気をなくした娘の背中を、メイトランドはしばらく無言で見つめていた。
「手紙のやりとりはしてるのかい?」
「ええ」
ジェンはかすれた声で答えた。
「いつも手紙では明るいの。 娘のディアドラちゃんの大きくなる姿とか、夏に出かけた別荘の様子とかを書いてきてくれて」
「ジェンにまで隠しているのか」
それは逆に深刻だ。 メイトランドは困って腕組みした。
「春の終わりからスキャンダルが続いていて、終わる気配を見せないんだ。 あまり新聞の社交欄がしつっこいので、嫌気がさした人たちも多い」
「それはエイプリルが余所者だからね」
ジェンは珍しくはっきり言った。 怒りのため、日ごろは藍色に近い眼が緑がかった光を放った。 そして身を乗り出すようにいて後ろを向くと、父に訴えた。
「お父さん、私……」
言い終わる前に、エリザベス夫人が華やかな声を出した。
「行っておあげなさい。 うちに荷物を置いたらすぐにね」
ジェンはありがたく、夫人の言葉を実行した。 荷物は自分の泊まる部屋に置いておいてほしいと使用人に頼み、付き添いはクレムが引き受けてくれたため、ジェンは彼とボストン駅まで行き、汽車でフィリーまで引き返した。
ドレクセル邸の前は閑散としていた。 覚えのある玄関前階段を上がり、ジェンは力強くベルを鳴らして、間もなく出てきた執事にほほえみかけた。 二年近く前にここへ来たときにはいなかった、岩のような顔をした男性だった
「こんにちは、ジェン・マクレディといいます。 クリス・ドレクセル夫人にお会いしたいのですが」
男は無表情のまま、軽く頭を下げた。
「少々お待ちください」
中へ通してもくれない。 ジェンが手持ち無沙汰に玄関の扉の横で待っていると、クレムがさりげなく上がってきて、通る人の好奇の視線からさえぎってくれた。
やがて軽い足音が走ってきた。 そしてエイプリルがジェンを手を掴んで引き入れ、強く抱きしめた。
「ジェン!」
ジェンも思い切り親友を抱き返した。 その間に鉄仮面の執事が重い扉を閉じてクレムを閉め出そうとしたので、きしむ音に驚いたジェンが振り向いて抗議した。
「その人は私の連れです! 入れてあげて」
顔を上げたエイプリルも、うるんだ瞳でクレムを見分けて、淡い笑顔を浮かべた。
「お元気そうね、久しぶり」
クレムは帽子のつばに手をかけて挨拶し、執事を無視して中に入った。
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